進展3



―――――――side 一舞



「忘れ物ないか?」

一舞
「うん。ちゃんとリストも持ったよ」


「じゃあ行くか」

一舞
「うん、行こ」


 2人一緒に藍原邸を出て、翔の車に乗り込む。

 あたし達がこれから向かうのは、大型ショッピングモールだ。



 あの後、暇を持て余し眠ってしまったあたしは、数時間前にたたき起こされた。

 二度寝だからなのか思ったよりも長く眠っていたらしく、家事のほとんどを翔が終わらせてくれていたというオチ付きで。

 仕事が無くなった分、翔と2人でゆっくり過ごし、みんなが来る頃一旦帰宅。出かける準備をしてから藍原邸に戻ってきたところ。


 毎週土曜日は《CLUB Junior Sweet》のスペシャルライブイベントがある。

 ちなみに今日は、夏休み前の最後の営業日だから、イベントはもちろん、その後のミーティングもいつもより大掛かりになるらしい。

 まぁ言っちゃえば、ミーティングと称した打ち上げ。という感じになりそうだけど、一応、オーナー・学ちゃんからの重大発表もあるとか。

 翔の家がその会場になっていて、大人チームも高校生チームも総出で準備するため、これからの時間はかなり忙しくなる予定だ。

 あたしと翔は買い出し係。出かけている間に手の空いてるメンバーが、イベント会場と打ち上げ会場を二手に別れて作ってくれる。

 スペシャルなだけあって、土曜日のライブは翔たちのワンマン。客入りもみんなの気合いもいつもより凄い。



(楽しみだなぁ…)


 あたしにとっては初めての事だし、楽しみすぎて知らず知らずに顔が綻ぶ。


一舞
「イベント楽しみだね」


 ウキウキするあたしの隣で、翔はあくびをひとつ。



「俺は眠い…」

一舞
「…あは」

(ちょっと起こすの早すぎたかな…)



「ちょっと…運転変わってくんない?」

一舞
「…無免でいいなら変わりますけど?」


「あ…そっか」



(冗談を言う元気があるなら大丈夫かな?)



 相変わらず、そんなに会話が続くわけじゃないけど…翔と一緒に居るのは心地いい。

 たぶん翔もそう感じてくれてると思う。


 目が合うと微笑みかけてくれる寝不足の翔と、ワクワクと気持ちが高ぶるあたしを乗せた車は、快適な速度で目的地に向かった。



















 数分後、街外れにある大型ショッピングモールに到着。

 駐車場に車を停めて外に出ると、休日の賑わいが耳に入ってきた。


 そろそろお昼になるらしく、食欲をそそる香りがあたしの鼻を擽る。




「…とりあえず飯でも食うか?」

一舞
「だね〜…お腹減った」



 翔が作ってくれた遅めの朝食で、結構お腹いっぱいになったはずなのに、まるで匂いに誘われたみたいに空腹感が襲ってくる。



(てか最近、家政婦業が曖昧だなぁ…)



 ちょっと油断すると、翔が全部やっちゃうから本当に…困る…?いや、助かるのか。でもこのままじゃ家政婦の意味が無くなってしまうのだけど…。


 それはさて置き。

 ショッピングモール内の、飲食店が並ぶフロアを、食品サンプルが飾られたショーケースを眺めて歩く。




「お前何食いたい?」

一舞
「ん?…ん〜、そうだなぁ…」



 翔に聞かれて、あたしの気分が指差したのは…



一舞
「……オムライス的な?」


「じゃあオムライスな」

一舞
「え?てか翔が食べたいもの聞いてないし」


「だってお前はオムライスなんだろ?」

一舞
「うん」


「じゃあそれでいいじゃん」

一舞
「………」

(…何だろコレ?)




 なんとなく妙な気分になりながら、翔と一緒にオムライスの店を厳選する。



一舞
「………?」



 翔は当然のことみたいにあたしの食べたいものを優先してくれたけど、それがとにかく不思議で。小さな問題かもしれないけれど、本当に、このままでいいのか気になった。



(なんでだろう?単純に面倒だっただけなのかな…?)


(…変なの。しかも何気に歩調合わせてくれてるし…いや、これって意外に普通の事なのかな…?)



 慣れていないというのは困ったもので、ちょっとしたことを色々と考えてしまう。

 翔はそんなあたしに気づきもせず、同じ早さで隣を歩く。



 少しだけ自分の目線よりも上にある翔の横顔を見て、彼がなんだか楽しそうに見えるのが嬉しく感じていた。





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