告白1





「チッ…なんで俺が…」



(う…蓮くんまだ不機嫌だ)



 店を出てから結構歩いたんだけど、まだ蓮くんは納得いかないって顔で私の隣を歩いている。




「道、ちゃんと教えろよ」

美樹
「…はい」



 足取りはとても早足。っていうか、身長が30センチも違うんだから、足の長さだってずいぶん違うはず。歩幅が合ってないうえに、合わせてくれる気も無い様子なのだ。

 出会った頃のあの優しさは幻だったんだろうかと思うほど、特に最近の蓮くんは怖い。

 怖いけど、一緒に歩いているこの状況は、なんだか嬉しい気もしてしまうのが不思議だ。



 何個目かの角を曲がった頃、隣からの空気が多少和らいできた気がした。そんな雰囲気にホッとしていると



「……桜井さん、涼を怒鳴りつけたって本当?」

美樹
「え…いや怒鳴りつけたっ…て言うか…ちょっと必死になっちゃったというか」


「へぇ…凄いな……原因は?俺か?」

美樹
「…ん〜……蓮くんと涼、2人が原因」


「……ふーん…ずいぶんハッキリ言うな」

美樹
「……」

(…また怒っちゃったかな?でも事実だし)



「……俺と涼は」

美樹
「…?」


「ダチだけど、ライバルでもあるし…仲間だけど、ある意味アイツの方が強めなんだよな」

美樹
「……だから…怪我するまで殴られても黙ってるの?」


「…怪我したのは、俺が涼より弱いからだろ」

美樹
「……」

(…でも蓮くん。それは絵面的に無理があるよ)


 長身の蓮くんよりチビな涼の方が強いなんて、イメージするのも難しい。




「…だから時々…アイツの大事にしてるモノを汚したくなる」

美樹
「…え?」


「…ほら…次どっちだ?」

美樹
「あ…えと、こっち」

(…蓮くん?)



 今見てる感じはもう不機嫌とは違うようだけど、それ以上になんだかいつもと違う気がする…。



(…どうしたのかな)




 その後、道を教える以外会話が無くなったまま、私のマンションにたどり着いた。





「…一人暮らしか。凄いな」

美樹
「あは…実家遠いし…親に無理言ってそうさせてもらってるだけだよ」


「…ふぅん……」

美樹
「……」


「……」

美樹
「………」

(…また会話止まっちゃったし。この緊張感、何とかしてほしい)




「…部屋どこ?」



 そう言って蓮くんは、一緒にマンションの階段を上る。



美樹
「え…ここまでで大丈夫だよ」


「…ちゃんと送り届けるってのは、部屋までが任務だろ」



 何を言ってるんだと言わんばかりの呆れた顔で、私の要望は却下されてしまった。

 そりゃ安いマンションだから、セキュリティーなんて無いけど、別にそこまでしてもらわなくても平気なのに…。



(…真面目なんだな)


美樹
「……」


「……」

美樹
「………」

(やっぱりちょっと…嬉しいかも)



 最近はずっと、廊下ですれ違っても素っ気ない態度ばかりとられていたし、無視はされないまでも会話らしい会話ができていなかった。

 なのに今日は家まで送ってもらえているなんて。これはやっぱり嬉しいことだ。

 会話が無い分そんなことばっかり考えちゃって、思わず自分の部屋の前を通り過ぎてしまうところだった。




美樹
「あ!…え…っと私の部屋はここ…です」


「……今…思いきりスルーしようとしたな」

美樹
「あは…ボーっとして…」


「………………」



(うぅ…無言で蔑むのはヤメテ)




「早く入れ」

美樹
「え?あ…うん」



 私が玄関の鍵を開けると、何故か蓮くんが扉を開いた。そして自分の家かのように
ズカズカと入っていく。



美樹
「ちょ!蓮くん!?」


「…疲れたから休んでいく」

美樹
「えぇぇっ!!?」

(てか何でそんな当たり前みたいに言ってんの!?)



 本当に自然に、スムーズな動作で、勝手に私の部屋へ入っていく蓮くん。

 靴を脱ぐのにモタモタしてる私の方がお客みたいだ。


 ようやく自分の部屋のリビングスペースにたどり着くと彼は、私のベッドにうつぶせで寝転がっていた。



美樹
「…蓮く〜ん…いくらなんでも恥ずかしいよぉ」


「…何が?」

美樹
「何が…ってそれ私のベッドだし」


「…あぁ…お前のニオイがする」

美樹
「!だからそれが…きゃっ!?」



 それが一番恥ずかしい。そう言いたかったのに、腕を急に強く引っ張られて、蓮くんのすぐそばに引き寄せられた。



美樹
「ひたた…舌噛んじゃうとこだったじゃ…!」



 腕は掴まれたまま。

 すぐ目の前で、蓮くんが私を見つめていた。





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