新世界2




 私の鼻をくすぐった甘い香り。その正体はすぐさま現れ私の隣にある椅子に腰掛けた。


??
「……誰?」

美樹
「!!!」

(わぁ…!外国人かと思った…。凄く綺麗…)



「翔くんソレ、俺の連れ」


「…そうか」

美樹
「……」


「……へぇ、なかなかだな」

美樹
「!!!!!」


 涼が《翔くん》と呼ぶその人は、凄く艶っぽい微笑みで、私を見ながら髪を触ってきた。



(やだっ!!髪っそんな風に触られたら…!!!)



 そしてしばらくの間、その宝石みたいな青い瞳で見つめられ、髪の毛を弄ばれて、私はもう…息をするのも難しくなっていた。




「…翔くん、もうその辺にしてやってよ」


「…ぷっ」



(え?)




「ごめんごめん、可愛いからつい」



 そう言って、さっきとは打って変わったくだけた顔で笑った。



(私、からかわれたの!?)



美樹
「〜っ!」

(無理!もう無理!こんなとこ居るだけで無理!!)


美樹
「っ!帰ります!失礼しました!!」



 たまらなくなって私はくるりと向きを変え、足早に出口に向かった。




「えぇ!?ちょちょちょっ!んな帰ること無いじゃん!」



 恥ずかしさで耳まで熱い。からかわれてしまった事が、それに反応してしまった自分がとにかく嫌で、何に対してこんなに腹立たしいのかもわからなくなってくる。慣れない現象ばかりで泣きたい気分にさえなっていた。





 私の足が、出入り口の手前にさしかかった時。





「待てって!」

美樹
「きゃっ!?」



 涼にガッチリと腕を捕まれた。




「せっかく来たのに帰ること無いだろ?」

美樹
「痛〜い!」



 ちょっと怒ったような雰囲気で、思い切り掴まれた腕が痛い。っていうか涼には私の気持ちがわからないんだろうか。




「お前が急に帰るとか言うからだろ!?だいたい帰るにしたってあんな立ち去り方、みんなに失礼じゃんか!」

美樹
「なっ!?なによそれ!じゃああんなことされて、私はただ黙って我慢しなくちゃいけないの!?」


「な…なんのこといってんだよ、別になにもされてないだろ」

美樹
「バカ!鈍感!私にはあんな状況耐えられないのよ!」


「はぁ?…まったお前は…わかんねーことを…」

美樹
「涼は慣れてるからわかんないんだよ!私がどんな気持ちだったかなんて…」


「……えぇ〜?」

美樹
「涼の中では常識内かもしれないけど、私にとっては辛いの。それなのに…あんな状況で…ずっとからかわれながら見てろって言うの?」


「え…だ…大丈夫だよ?あの人たちのライブを手伝うんだから、見学してる間、美樹1人だよ?」

美樹
「……………本当に?」


「マジだって…それにみんなだって仲良くなりたかっただけだからさ」

美樹
「……私…凄く怖かったし…恥ずかしかったんだよ」


「…………ごめん…気ぃつかなくて」

美樹
「……」

(やっと、わかってくれたみたいだね…)



 一気に気持ちを吐き出して、ようやく気持ちが落ち着いた私だったけど、目の前の涼は、シュン…という音が聞こえそうなほど落ち込んでしまった。

 涼にしてみれば、自分の特別な場所を私に見せたかっただけなのだろう。同じように楽しめると思っていただけなのだ。



美樹
「……………わかった。涼に免じて…今日は見学する」


「ほんとか!?…良かった!」

美樹
「うん。だから、もう…置いてけぼりにしないでね」


「…うん」




 涼は、中学の頃からこの環境に慣れてる。

 私が…一緒になんてできるんだろうか…。





 涼が安心してステージの方へ走って行き、私はいまだ消えない不安を抱えながら、さっきの場所に戻ろうとしていたその時。





「あ…」

美樹
「!」


 背後から蓮くんの声がして、振り返った。



「…?…入るの?」

美樹
「…え…っと」



 蓮くんは、信じられないって顔で私を見ている。



美樹
「…今日は一応…見学かな。私、何も知らないから」


「…へえ………まぁ…せいぜい邪魔にならないようにな」



 ニコリともしないどころか、馬鹿にしたように眉をしかめて、言葉を吐き捨て、背を向ける。



美樹
「………」

(…冷たいなぁ、ちょっとくらい歓迎してくれてもいいのに)



 でもそう考えたら、さっきのお兄さんたちみたいに軽くからかってくれたくらいの方が、居やすい気がした。



(悪い人達じゃないんだよね…きっと。涼に対してだって、なんだか弟を相手にしてるみたいだったし…)


 もしかしたら涼は、そういう雰囲気も見せたかったのかもしれない。そんな考えを巡らせながらカウンター席に戻る。

 カウンター席まであと1メートルという辺りで、涼のお兄さんがニコニコと話しかけてくれた。



透瑠
「涼のお友達ちゃん。さっきは驚かせてごめんね」

美樹
「あ…いえ私こそ…慣れてなくてすみません…」



 ペコリと頭を下げる。



(!)


美樹
「あ…あの?」

透瑠
「ん?」



 頭を下げたその直後。何故か向かい合わせに両手で腰を抱かれていた。



美樹
「あの…これは…?」

透瑠
「《これ》って、これのこと?」




(わわっ!?更に密着されちゃう!)



??
「透瑠!」




 顔が数センチの距離まで近づいた瞬間、誰かの声が聞こえて…




??
「っん〜ま!アっカンでそれはぁ〜!!」








     ドカッ




美樹
「きゃぁっ!!?」



 一瞬もの凄い勢いで目の前を何かが横ぎった。

 思わず目を閉じたものの、辺りがやけに静かになったので、不安になって目を開ける。



美樹
「!!!」

(…え?…え?え?えー!??)



「ほんっっまに油断も隙も無いやっちゃな」


美樹
「!!!!?」

(なに!?なんなの!!?関西弁の人が涼のリアルお兄さんに跳び蹴りしたんですけど!!!)



「ごめんなぁ、どうも無いか?」

美樹
「わわたしわへ…へいきです」


「ほんなら良かったわぁ、涼の兄貴や思て油断したアカンで。コイツはある意味モンスターやからな」

美樹
「…!!!」

(イヤイヤイヤ!モンスターとか言われてもますます意味わかんないですから!!)





 私は一瞬のうちに、再びパニックになってしまった。





prev * next

Novel☆top←
書斎←
Home←


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -