新世界1



 夏休みが目前に迫った6月の終わり頃。

 私たち一年生は、部活をどうするのか選択を迫られていた。




「はぁ〜食った食った〜」



 お昼休み。当然のように私の前の席に座って、くつろぎ始める涼に、質問をしてみる。



美樹
「…ねぇ涼?」


「ん?」

美樹
「部活どうするか決めた?」


「…部活?」




 …そう。私にとってこれは、なかなか深刻な悩み。

 普通なら例えば、やりたい事があれば、好きな部を選んだりもできるし。無い場合でも、友達と申し合わせて一緒に部活ライフを楽しむとか、そういう選択になるはずだけど…。

 私にはやりたい事も、話を合わせる女友達もいない。だから涼に聞くしか無いという状態なのだ。




「あぁ、俺はずっと前から決めてるよ」

美樹
「え?ホントに?何部?」


「バンド部」

美樹
「…何ソレ?その部活って何すんの?」


「まぁバンドやライブに関わることなら何でも…かな?」

美樹
「…へぇ…そんなのがあるんだ?」

(そういえば涼は、前にバンドやってたんだっけ…)



「つーか俺が目標にしてる人がいてさぁ、その人が作った部だからゼッテー入るんだって決めてんの」

美樹
「…そうなんだ」

(いいなぁ…やりたい事決まってるなんて…)



 別に帰宅部でも良いんだけど、どうせなら私だって何かしたい…。




「美樹も一緒に入んね?」

美樹
「え…だって私、何にもわからないよ?」


「わかんなくったって大丈夫だって。みんな優しいからちゃんと教えてくれるし、何でも最初から知ってる奴なんていねーだろ?」

美樹
「…まぁそうだけど」


「嫌なら無理には誘わねーけど、興味あんならやってみれば?」

美樹
「…うん…ありがと」



 誘ってくれたことは凄く嬉しかったけど、やっぱり不安が先に立って、曖昧な態度をとってしまった。



(まったく未知の世界だもんなぁ…どうしよう…)
























 放課後。私は涼に連れられて、部活見学に行くことになった。

 でも…



美樹
「ねぇ涼…?」


「んぁ?」

美樹
「…これって…帰ってない?」


「…いや?…部活場所に向かってんだけど?」

美樹
「…?」



 授業が終わってから、涼に促されるまま荷物を纏めて学校を出てきたんだけど、明らかに学校の敷地外に向かっている。



(部活なのに学校の外に活動拠点があるの?)



 私が知らないだけなのかもしれないけど、涼を信用していないわけじゃないけど、やっぱり不安なのだ。


 不安なまま、しばらく歩いてたどり着いたのは…



美樹
「…わぁ」



 外国のドラマに出てきそうな、ピンクのネオンが可愛いライブハウス。

 涼の後に続いて店内に入ると、店内のあちらこちらに同じ制服姿の人たちがいた。

 あまりの可愛らしさに感動して、店内をキョロキョロしている私を置いて、涼は部長さんらしき人に挨拶をしにいったようだった。




「美樹」

美樹
「ん?」


「俺は少し手伝いさせてもらうから、お前はあっちで見学してていいよ」

美樹
「えっ?」



 そう言って涼が指差したカウンター席。そこにはなんだか怖そうなお兄さんたちが居るじゃない。

 自分の顔が引きつってるのがわかる。でも涼は、そんな私の反応になんて気づきもせず、背中を押し、そのお兄さんたちのところまで私を連れて行ってしまう。



(うぅ〜怖いよぉ〜!)


 そもそも私はライブハウスになど入るのは初めて。その内部の雰囲気はもちろん、そこに居る人たちだって、初めて会うようなタイプばかり。

 金色や銀色、メッシュにマニキュアの男の人なんて、どう対応していいのかわからない。っていうか、まるで異人種みたいで怖いのだ。











「涼まいど〜…ありゃ誰ぇ?可愛い子ぉやなぁ」

美樹
「…こ、こんにちは」


「はい、こんにちは〜」


「純くんお疲れっす」


「新しい女か?」


「違いますよ学さん。コイツは友達。ライブハウス初心者なんで見学して行くんす」

透瑠
「…へぇ初心者なんだぁ、よく来たねぇ」


「あ!兄貴!手ぇ出すなよ!」

美樹
「えっ!?お兄さん!?」

透瑠
「あは、反応可愛い〜」

美樹
「!!」

(うわ!なんか笑顔の破壊力が凄いんですけど…って言うよりイケメン揃いすぎてない?)


(てか…何?…全然、この世界観の意味がわかんないんだけど)



 とりあえずの挨拶も、最初の一言が精いっぱいで、どうしていいかわからずオロオロする私は、イケメン'sと楽しげに会話する涼をすぐそばで見ているだけ。


(…私、どうしてたらいいんだろう)


美樹
「?」

(え?…なに?)



 その時不意に、甘い香りが鼻をくすぐった。




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