豹変3



 自分から出た大声には自分でもびっくりしたけど、涼の迫力にもかなりの恐怖を感じた。

 だけど、涼が蓮くんにしたことと、足を引きずるほどの怪我をしていながら、すぐには病院に行かなかった蓮くんの気持ち。考えれば考えるほど黙ってはいられない。



 怒鳴りながら立ち上がった涼の迫力に、気圧されないように深呼吸をする。

 私の足は若干震えていたけれど、それ以上に心がざわめいていた。

 涼は、ふぅっ…と息を吐いて座り直すと、静かに言った。




「…お前…俺の何?…何でもねーだろ。俺に構うな」



 さっきまで私を睨みつけていた視線は床に落ちて、怒りを湛えていたはずの雰囲気は悲しさを感じさせた。


 涼も苦しんでいる。それは感じられた。

 何が苦しいのかなんてわからないけど、だけど私が彼にとって何でもない存在だなんてあんまりだ。



美樹「…構うな?…友達だと思ってるから無理」


「…」

美樹
「…」


「……」

美樹
「とにかく来て」



 黙ってしまった彼にそう言って、私は一人教室を出た。

 涼がわかってくれることを祈りながら廊下に出ると、何故か黒山の人だかり。上級生までが様子を伺いに来ていて、教室の前は酷くごった返していた。

 私がそれを気にせず進む分だけ道が出来る。

 通ろうとする位置にいる人達が不思議と次々に道を空けるからだ。

 よくわからない現象だったけれど、今はそんなこと構っていられない。

 涼が来てくれることを願って、私はそのまま屋上へ向かった。











 屋上への階段に足をかけると、後からついてくる足音に気づいた。


(…涼でありますように)


 蓮くんと涼の間に起きたことを公にはしたくない。そして2人には仲良くしていてほしい。そんな気持ちを抱きながら、祈るようにドアを開いた…。











 屋上のフェンス辺りまで来ると、背後から声をかけられた。



「…来たぞ…何だよ」

美樹
「…うん」


 私は涼の方へ向き、この場所で見た蓮くんのことと、その後の様子を話した。



「……それは…俺と蓮の問題で、美樹には関係ないだろ」


 ほんの少し声のトーンが柔らかくなった気がしたから、私もゆっくり柔らかく、言い合いを避けるように言葉を選んで話す。


美樹
「私には関係ないかもしれないし、確かに割って入るべきじゃないかもしれないけど…どうしてあそこまでする必要があったのかわからないよ」


「…」

美樹
「…仲直りしてほしい」


「これは喧嘩じゃないから…仲直りってのはちょっと違う」

美樹
「蓮くんも言ってた。でも友達なのに…」


「………男にはさぁ…女には理解できない事情があるんだよ」

美樹
「何ソレ」


「そういうもんなのっ」

美樹
「意味わかんない」


「…大丈夫だから」

美樹
「…」


「蓮はちゃんとわかってくれてる」



 …この時はそう言ってたけど、ここからまだしばらくの間涼と蓮くんが一緒に居ることは無かった。

 私からはもう何も言えなくて、見守るしかなかったけど…この日一緒に教室に戻った私と涼は、元の雰囲気に戻ることができた。そしてこの一件以来、すれ違い様に何か言われたり、教室でハブられたりってことがパッタリと無くなったのだった…。





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