事情2







「………………」

美樹
「わ!?ごっ!ごめんなさい!」


 蓮くんの無言の訴えに慌てて手を離したけど…



「……」


 蓮くんは立ち止まったまま…。


美樹
「…ごめん」


「…俺…泣かれるのは、無理だ」


 困ったような、素っ気ないような雰囲気で、彼はそう言った。


美樹
「あ…えっと…これは違くて…」


 涙の意味をどう説明したらいいか困っていると、「フゥ…」っと、蓮くんがため息を吐く。



「………何かあった?」

美樹
「……」

(……わ…聞いてくれるんだ?)


美樹
「……えっと…私…」


「………」

美樹
「なんだか女子から…ハブられてるみたいで…」


「…………あぁ………………だろうな」

美樹
「え!?」


「…涼と居たら、女友達はできねーよ」

美樹
「…」

(何ソレ?)



「…まぁ…俺と居ても同じだけど」



 そう言って彼は、観念したようにフェンスにもたれた。



美樹
「あの…どういうこと?」


「………中学の時の話だけど…」

美樹
「…?」



 私の問い掛けに対しての答えなのか、蓮くんはゆっくり話し始めた。


 …それは、蓮くんと涼が中3の頃の話。

 涼には彼女が居た。




美樹
「うっそ!?涼って彼女居たの!?」


「うるさい。黙って聞け」

美樹
「あ…ごめん」



 …蓮くんが言うには、その《涼の彼女》って子。

 2つ年下の、元気で可愛い女の子だったらしい。


 涼がその子を好きになって、告白して、付き合う事になったんだけど…彼女の周りからは女子が離れていったって。

 蓮くんも涼も当時バンドをやっていて、大人に混じってライブハウスで演奏してたって事情があり、学校にもファンの子が多く居た。

 だけど中学生でライブハウスに通うような女子なんて…私の中の常識では、ちょっとヤンチャだったりするイメージがある。




「…まぁ…そういうタイプが多かったな」

美樹
「やっぱり…」



 だから…って言うのも変だけど、涼の彼女は目をつけられた。



(…それって)



 私は、話を続けようとする蓮くんを…息を呑んで見つめた。

 …目をつけられるってことは、何かにつけ嫌がらせをされてたってこと。そして、同じ事をされたくない女子は、ターゲットを避けるようになる。

 …よくある現象だ。




「…でもアイツは…」

美樹
「…」



 遠くを見つめて、その子を思い出しているかのように、蓮くんは目を細めた。




「アイツは…そんなの相手にしていなかったな…」

美樹
「…え?」


「…いつも、何も無いみたいに笑っていた」

美樹
「…」


「…まぁ…だから。アンタのソレも同じだろ」

美樹
「…私…目をつけられたの?」


「……見たことある顔が結構入学してるからな」

美樹
「…う…わぁ」


「…付き合ってるわけでもないのにな。…ご愁傷様」

美樹
「……」

(あ、蓮くん今、凄くイジワルな顔した)



「…まあ頑張って」

美樹
「う〜…そんなぁ」


「…たぶん…涼はその辺鈍いから苦労するだろうけど」

美樹
「う〜…」

(まったく同感だわ…)



 蓮くんのブラックな微笑みに何故かドキドキしながら、事情がなんとなくわかったからなのか、ちょっと元気が出てる事に気づいた。



(…蓮くん、思ったより良い人かも)



 先に屋上から出ていった蓮くんを見送って、私もスッと立ち上がる。

 大きく深呼吸したら、ハブられるくらいなんてこと無いような気がしてきた。



(…まぁ、涼にファンや彼女が居たことは、なんとなく解せないけど)



 仲良くしてやろうじゃないの!

 そんな気持ちになっていた。






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