事情1




 クラス分けから2ヶ月。

 学校には大分慣れてきた頃だけど、だけど何故だろう…不思議なことに全く女の子の友達が出来ていない。

 そんな寂しいいつも通りの朝。玄関で靴を履き替え、教室へと廊下を移動する。



「美ぃ〜樹ちゃん!おっす〜」

美樹
「あ、涼。おはよ」


 たまたま背後から声をかけてきた涼と挨拶を交わす。





       ボソボソ…






美樹
「!?」

(まただ…)



 涼と言葉を交わした途端、何か言われた気がして辺りを見回す。



美樹
「……」


「ん?なに?どした?」

美樹
「あ、ううん」

(何なんだろう?)



 クラス分けのあの日以来、ほぼ毎日起こる現象。

 よくわからない現象に眉をひそめながら、涼と一緒に教室に向かう。







       ガラッ…








 勢いよく教室の扉を開け「おはよう!」って言いたかったのに、みんなの視線が痛くて声にならなかった…。




「桜井さんおはよう」

「おはよう桜井さん」


美樹
「あ…おはよ」


「おーっすー!」

「おーっす涼ちん!きのうの試合観た!?」


「観た観た!やべーよ泣けた!あのゴール!」

「だよなー!!」


         ぎゃはははは!!



美樹
「……」

(サッカーの話かな…いいな、涼はすぐに友達できて…)


 男子は向こうから挨拶してくれるのに、女子はみんな目を逸らす。教室での、こんな現象も、クラス分け以来続いている。

 入学式の時に話しかけてくれた子さえ、すれ違っても…私に気づいている顔をするのに知らんぷりされる。




(…なんで?…私、何かした?)




 こんな毎日だから、なんとなく…学校に居るのが辛く思えてくる。




「元気ないなぁお前」



 自分の席でふさぎ込んでいる私の、前の席に座り…涼が顔を覗き込んできた。



美樹
「……涼」


「ん?」

美樹
「…ちょっと聞いてほしい事があるんだけど、場所変えて話さない?」


「………」



 私にとって相談ができる友達と言えば今や涼くらいのもので。この寂しい気持ちが限界点に到達しつつあった私は、すがるように涼を見つめた。




「…お?…なんだよ告白か?」

美樹
「………は?」


「そうだよなー、俺みたいな男に告らねーなんておかしいもんな。ふはっ」

美樹
「……はっ?はぁっ!?ばっかじゃないの?そんなんじゃないよっこの鈍感!自意識過剰!!」


「うわ、ひでー…なんだよ違うのかよ。つまんねーな」

美樹
「………」

(あーっもう!…何を言ってるんですか!)


 今の私はそんな冗談に付き合えるテンションじゃないのに!


美樹
「…はぁ…もういい」





       ガタッ…





「お、あれ?美樹?お〜い。HR始まるぞ〜」




 涼があまりにも脳天気で、私はなんだか疲れちゃって…一人ヨタヨタと教室を出た。























 HRが始まるのはわかってたけど、今日はもう教室に居られる気分じゃなかったから。私の足は力無く、屋上へと向かっていた。



美樹
「…………はぁ」



 とぼとぼと辿り着いた屋上のフェンス。冷たい金網に手をかけ、空を見上げたら、ため息が出た。




 どうしてなんだろう。

 自分から「どうしても!」って親に無理言って入学した高校なのに。

 ここに入るためにあんなに勉強したのに…。


(逃げて来ちゃうなんて私…ダメだな…)


 今日はこれで、欠席扱いになるだろう。

 私の思考は、もう後ろ向きにしか働かない。


(辞めちゃ…だめかな)


 なんだか泣きたい気持ちになりながら、屋上の冷たい地面に座る。






      キーン…コーン…





 それは、HRが終わって一限目が始まることを教えてくれるもの。だけどやっぱり、折れてしまった心は私の体を鉛のように重くしていて、そこから動けなくなっていた。




















ギィィ…






       バタンッ








美樹
「…………」





 顔を伏せてうずくまる私の耳に、屋上のドアの音…でもそれさえどうでもよくなっていたのだけど。






??
「………桜井さん?」

美樹
「?」

(この声…?)


??
「桜井さん…何やってんの?」

美樹
「……!」



 その声に反応した私の体は、パワーを取り戻したようにサッと上体を起こした。



美樹
「……蓮くん」


「………」

美樹
「………」


「………もしかして…泣いてた…?」

美樹
「え?」


「顔に…跡ついてる」



 自分の頬の辺りを指差して、蓮くんが言った。



(うそ!?)



 全然自覚が無かった私は、慌てて顔を拭う。




「…俺、消えるわ」

美樹
「あ!待って!」



 耐えられないといった様子でその場を去ろうとする蓮くん。私は思わず彼の制服を掴んでしまった。




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