覚醒6 ―――――――side 涼 (美樹のやつ…あんなことしたのに、なんで俺のことなんか…) あの時の美樹の顔がフラッシュバックする…。 蓮 「なんだ。美樹の顔でも思い出しているのか?」 涼 「…くっ!」 蓮の口元が、いつにも増して黒い笑みをたたえている。 (…このドS野郎!この状況楽しんでねーか) 涼 「…お前がよく、美樹の言うことを聞く気になったよな」 蓮 「気が向いただけだ。まぁ…そろそろ許してもらいてぇとか…思ったからかもしれないが、な」 (許す?) 涼 「……許されるもんなのか?あぁいうのって」 蓮 「…さあな……どうせお前も同じことをしたんだろうが、間違った相手が美樹で良かったな」 涼 「っ俺のは未遂だ」 蓮 「……前も後も、そう変わらない」 涼 「…」 蓮 「一舞にも美樹にも、中途半端だな。お前は」 涼 「っつーかお前何しに来たの!?」 蓮 「嘲笑いに?」 涼 「…このドS」 蓮 「…分り切ったことを……俺がお前を慰めに来たとでも思ったのか?」 涼 「いやそれはそれで気持ち悪い」 蓮 「ふっ、だろ?…そんなことより、今まで黙って見ててやった俺に、貴様は感謝するべきなんだ。そして俺には、お前を嘲笑う権利がある。違うか?」 涼 「…ま、下手に慰められるより気が楽だよ」 蓮 「ダッセーな。ざまぁみろ」 涼 「うるっせーよ!」 蓮のペースにのせられて、さっきより幾分気持ちが和らいだ。 とにかく美樹には精一杯謝ろう…許してもらえるまで…。 …そう思った。 それから少しの時間蓮と話して、なんとなく気分が晴れた。そして、自分を冷静に見て…情けねーとか、くだらねーとか。なんか普通に笑えてきた。 …たぶん俺は焦ってたんだと思う。 一舞の気持ちが俺に無いってことも、たぶん気づいていて、気づかないふりをして…誰かに奪われるかもしれないって、怯えてただけだ…。 だから。一舞の気持ちを無視してた…。 自分の一方的な気持ちばかり押し付けてた…。 …それに、美樹が言ってた、一舞に対する嫌がらせの話…気づいていなかったわけじゃない。 一舞なら大丈夫だって、勝手にそう思ってただけなのか。…言ってくれないことに拗ねていただけかもしれない。 もしキツかったら頼ってくれると信じたかったのかもしれないけど…。 (…はぁ……ダメだよな、こんなんじゃ) 蓮 「…明日には元のバカに戻れ。いつまでもグダッているなよ」 涼 「わかってる」 帰ると言う蓮と、玄関まで降りる。 靴を履く後姿を見ながら、無意識に言葉が漏れた。 涼 「…なぁ蓮」 蓮 「なんだ」 涼 「!…あ、いや」 蓮 「言いたいことがあるなら言った方がいい。濁されるのは嫌いだ」 涼 「…あぁ、そうだったな」 蓮 「……」 涼 「…一舞のことだけど……俺はもう、諦めようと思う」 蓮 「…一舞と話もしないうちに決めていいのか」 涼 「…いい。…俺じゃダメだってわかったんだ」 蓮 「……そうか」 涼 「今まで気ぃつかわせて悪かった…」 蓮 「…別に……俺はただ……………」 涼 「とりあえずさ、一舞にはちゃんと話すし、心配すんなよな」 蓮 「………」 蓮が帰ったあと、ふと思い立ってリビングに行くと、新しい曲を練習しているのか真剣な面持ちの兄貴がそこに居た。 …言いたいことがあったけど、また後にしよう。俺はそのまま廊下に戻り、携帯で時間を確認しながら外に出た。 俺が一舞と別れたら、蓮は一舞に告うんだろうか……もしそれで2人が付き合うとしても、俺は大丈夫だ。 Novel☆top← 書斎← Home← |