覚醒5




―――――――side 蓮


 涼の家に向かう道のり。何気なく、一舞の家がある通りへの角を曲がる。

 馬鹿でかい翔さんの家を目印に進むと、その門の辺りに人影が見えた。




「…」



 どんどん近づくに従って、それが誰なのかわかる。




「………」

(一舞と翔さんか………ずいぶんと親しげに話しているな…っていうか)



「…なんであんな所で話してるんだ?」


 眼前に捉えた光景。その不思議さに、俺の疑問が意図せず声になった。

 そのうち一舞と翔さんが、まるで恋人の様に手を振り合う。


 先に自分の家に入ったのは一舞。翔さんは…まだ見送っている。



(…そろそろ俺の存在に気づけ)


「…翔さん、お疲れ様です」


「!………なんだ…蓮か。お疲れって、なんでお前がこんなところに居るんだ?」


「……まぁちょっと野暮用で…。翔さんこそ、一舞の見送りなんてするんですね」


「…ん…まぁ…たまたまだ」


「………」

(…なんなんだその、微妙にはにかんだ顔は)



「…なんか…恋人みたいな雰囲気を醸し出してましたが」


「…そう見えたのか?…ヤべーな」


「………」

(それは「ヤべー」とかいう問題か?まさか今がどういう状況なのか理解できていないのか)



「…まぁ…そういうんじゃねぇんだけどな」


「……当然ですね」

(そういうんだったら大ごとだ)



「そういえばアイツ……今日は学校休んでたみたいですけど…」


「……事情を知らないわけじゃないだろ」


「………まぁ…」

(…なんとなくは、分ってはいるが。詳しくは知らない)



「…学校は休んでも、家政婦のバイトには出てたんですね」


「……こういう時は話し相手がいた方がいいだろ。つーか俺も戻るし。涼の方よろしくな」


「!」


 そう言うと翔さんは、大豪邸の中に消えていった。



「………」

(…バレている)


 ほんの少し気になった翔さんの髪型にも、突っ込む隙が無かった。なんだあの前髪。



「………」

(…へぇ…話し相手…ね)



 それにしても近頃の翔さんは、ずいぶんと色々な表情を見せるようになった。


(…一舞が原因か?)


 まぁ考えても仕方ないか。

















 気を取り直して、涼の家へ向かう足を進める。

 大豪邸の壁が視界から消えて、涼のキャラに合わねーメルヘンな家が見えた辺りで、奴の携帯を鳴らす。






    プルルルル…






    プルルルル…







    プルルルル…







    プルルルル…







    プルッ…







『…何?』



「……」

(一応、電源は入っていたようだな)



「…今、貴様の家の前に居るんだが」



『は?…なんで』



「貴様に用があるからに決まってるだろ。この俺がわざわざ出向いてやったんだ。追い返すような真似はするなよ」



『……』



「……」



『…はぁ。分かったよ。…とりあえず開けるわ』



「早くしろ」

















        ガチャ…






「………」


 玄関扉が開くと、むくれた涼の顔。そして、透瑠さんのピアノの音が聴こえてきた。



「遅い」


「いきなり来る奴が言うな」


 とりあえず家に上がり、涼に続いて二階の部屋へ上がる。

 部屋に入るなり涼は…



「…誰の差し金で来た?」


「………」

(…差し金?…っつーかお前まるで、家族に反発する思春期の子供みたいだぞ)



「………」

(…まぁここはとりあえず、素直に答えておくか)



「誰の差し金かと聞かれたら…美樹だな」


「…は?………まじで?」


「ふっ………ビビったろ?」


 さっきまでの威勢はどこに行ったのか、美樹の名前を出した途端、あからさまに狼狽え始めた。

 なんて分かりやすい奴なんだ。どうせ美樹に八つ当たりでもして、自己嫌悪にでも陥っていたとかそんなところだろうな。


(…馬鹿なやつだ)


 涼の部屋の床にどっかりと胡座をかき、俺の台詞に反応する涼を見ながら。自分の顔が…黒い笑みで染まっていくのを感じていた。





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