覚醒4



―[藍原邸]―――――――――side 一舞

一舞
「こんな時間に食べたら太りそうだなぁ…」


「…べつに無理して食わなくてもいいんだぞ?」


 慣れた手つきで料理を作る翔を眺めながら、なんとなく言ってしまったあたしの呟き。それに対し、ワザと不機嫌な顔を作って反応する翔が可笑しい。


一舞
「わっウソウソ!早く食べたぁい!」


「じゃあ大人しく待ってろ」


 あたしの反応にニヤリと笑う翔は、たぶん…いつも通りだ。

 トントンとリズム良く響くまな板の音。長い前髪を、おでこの上でひとつ結んでキッチンに立つ翔は、なんだか可愛らしく見える。



一舞
「…………?」

(………あ)



 翔がフライパンに火を入れた時、ふと、思い出した。



 あたし…翔を待ってたんだ。



一舞
「………」

(今、話せるタイミングかな…?)



 料理をしている翔はなんだか楽しそうで、邪魔するのは気が引けるのだけれど。

 何気なく…本当に何気なく話を振ってみる。



一舞
「……ねえ?」


「ん?」

一舞
「あのね?」


「うん。なに」

一舞
「ゆうべさぁ…………あたしとキスしかけたじゃない?」


「熱っち!」

一舞
「わっ大丈夫!?」


「っって、お前!…蒸し返すなよっ!!」

一舞
「…ぷっあははっ真っ赤!」



 なんと翔は、耳まで赤くして照れてしまった。

 まさかそんなリアクションが返ってくるとは思ってなかったから、つい笑ってしまったけど、なんとなくこっちまで照れくさくなったのは内緒にしておこう。


 膨れっ面になりながら料理を続ける翔に、あたしはなるべく笑いを堪えながら話を続ける。



一舞
「そうじゃなくて、ふふっ、そのことでね?分かっちゃったことがあるんだ」


「はぁ?…何が」

一舞
「うん…」


「…早く言いな」

一舞
「…んっとね……あたしの涼ちゃんに対する気持ちは、恋じゃなかった…みたい」


「……」

一舞
「……だって、翔とは顔がくっついただけで体が異常反応するのに、涼ちゃんにキスされても変化が無いどころか…嬉しいとも恥ずかしいとも思えないんだもん」


「………」

一舞
「今までのこと思い返したら…子供すぎたねあたし…」

(…あ……なんか言ってて、テンション下がってきた)



「……良かったんじゃね?」

一舞
「…え?」


「それが分かったのは良かったなって言ってんの」



(あ…ニヤニヤしてる)




「…つーかさ」

一舞
「ん?」


「まるで、俺の方が好きだって言ってるみたいに聞こえるぞ?」

一舞
「………え」

(あたし、そんな意味で言ったつもりじゃないんだけどな……)



 自分の言葉を思い返してみるけど…


一舞
「……」


「……」

一舞
「…………」


「…………」

一舞
「……そうなの?」


「…は?」


 理解できないあたしの答えに、翔がポカンとする。



「……違うなら違うって言えよ」

一舞
「…う〜ん。だって翔のことも好きは好きだよ?」


「あのなぁ、俺は恋愛感情の話をしてんの。気持ちの違いについて自分で気づいたって。自分がガキだったって今、言ったばっかじゃねーか。つーかまだガキ」

一舞
「うーわっ、ガキとか2回も言われた〜…じゃあどうしてキスしようとしたんですかぁ?」


「そっ…それとこれとは話が別だ」

一舞
「どう違うのさ」


「うっせーな。つーかお前だって、そういう顔してただろ」

一舞
「えー!?してないし!」


「しっかりキス待ち顔になってたっつーの」

一舞
「はぁ?だとしても、そんなの翔のせいじゃん」


「お前…よくもそんな言いがかりを…」

一舞
「言いがかり〜とかウケるんですけど」


「このやろ…そうかよ。てか自覚無いとか重症だな。なんなら写メってやれば良かった」

一舞
「写メとか変態…」


「変態じゃねーし。つーか知識あんのか無いのかハッキリしろ」



 結局。全部を話せたわけじゃなかったけど。


 涼ちゃんとのことについて、あたしの心はいつの間にか……決まっていた。






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