異変3



 桜の季節に知り合って、夏が来る頃付き合い始めた。

 あたしは中学に入りたての12歳。涼ちゃんは2つ年上の14歳。

 あたしにとってはなにもかも、生まれて初めての経験だった。


 女の子として優しくされることも、好きだと言われたことも、恋人になることも…。



 いつも照れくさそうに手を繋いできた涼ちゃんの手は、細くて長い指が綺麗だったのを覚えている。

 きっと、物心つくまえからずっと、ピアノを弾いてきたからだろう。その繊細な手に、あたしの手が包まれる瞬間、あたしはなんだか幸せな気持ちになった。

 でも…冬が近づいて、あたしの事情が変わり、転校で離れ離れになった。


 別れるなんて考えてなかった。むしろ、遠くても頑張りたかった。

 でも涼ちゃんは、無理だと言った。

 どちらかが心変わりするなら、気持ちが通じているうちに別れたい…って、そう言った。




(悲しかったな…)



 悲しかったけど、涼ちゃんを苦しめたくなくて、その別れを受け入れた。

 次、頑張ればいい。必ずまた会える。そう信じて…。



 春休みに入ると同時に、あたしはこの街を去った。

 涼ちゃんからの見送りは……無かった。



 あれから約2年の月日が流れ、目の前にいる涼ちゃんは、変わってしまった。

 あたしを見据える冷たい瞳から逃げるように、つい目線を外してしまうと…涼ちゃんの肩越しに、人影が見えた。


「涼…アタシ戻るから」


 一言そう言うとその人は、涼ちゃんの横をすり抜け、あたしにチラッと目線を送り、まるで勝ち誇ったような表情を見せ、去って行く。





(涼ちゃんを呼び捨てにできるってことは、3年生…?彼女なのかな…?)


「…チッ」

一舞
「!」

 去って行く女の子を見送ったまま固まっていたあたしは、耳に響いた舌打ちの音に振り返った。



 涼ちゃんが無言であたしを見ている。

 その鋭い目線がなんだか…なんて言うか…理由がわからないから、ちょっと怖い。




 視線が泳ぎ、ほんの少し…後退る。




「…突っ立ってないで中入れば?」



(!?)



 そう言うと涼ちゃんは、あたしの腕を掴み、乱暴に中へ引き入れた…。






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