衝動9



―――[藍原邸]――――――――――side 一舞

 香澄が使っていた部屋で一夜を明かし、目の腫れがひかないあたしはまだ帰れずにいた。そして、ゆうべ起こった色々な事を、少しスッキリした頭で思い返す…。


 涼ちゃんを拒絶してしまったことにショックを受けて逃げてきたはずなのに、今はそれほど後悔していない。

 確かに涼ちゃんを傷つけたことは事実だから、それはどうにかしなきゃいけない…でも、今になってなんとなく気づいたのは…


 涼ちゃんに対するあたしの《好き》は、仲間以上の感情ではない。


 …って事だ。

 そもそもその違いを説明するのは難しいことで、自分の中でさえハッキリしない。なのにこうして結論を出した理由はちゃんとある。

 彼があたしに触れてきた時の感覚が一番の答えだと感じるのは、たぶん間違いじゃないと思うから。


(だって、好きな人とのキスが嬉しくないなんてあり得ない)


 とはいえ、初恋だと思っていた相手。その人への感情が恋心ではないとするなら、あたしはまだ、恋の感情すら知らないことになる。子供時代の延長でしかないその心で、二度も彼を傷つけてしまったことにもなるわけで…。


(どうしたら…許してもらえるかな…)


 この期に及んでまだ、友達でいられると思っている自分が恨めしいけど…彼を嫌いなわけではないのだから、むしろ大好きなのだから仕方ない。

 たとえそれが、友情だとしても。











 部屋の窓から差す光は、そろそろお昼だと教えてくれる。

 藍原兄妹が…それぞれに用意してくれたお泊まり道具。嬉しかったな…。

 香澄の用意してくれた物たちは、全部がピンクで可愛らしく、使うのがもったいないくらいだった。そして、香澄の服じゃ着られない大柄なあたしのために、翔が用意してくれたらしいTシャツは、やっぱりそれでも大きくて…着ているとちょっとだけ、恥ずかしいような気分になる。

 同じ屋根の下にいるのに、ずっとベッドの中で考え事をしていたから、今日はまだ彼に会ってないけど…。

 寝返りをうつたび、ふんわりと香る独特の香りが…なんだか安心する…。


一舞
「………………」



 ゆうべの、狼狽えた翔の後ろ姿を思い出すと、部屋に来ない意味もわかるけど。

 話を聞いてほしい…って思うのはおかしいかな…?






 あたしのいない学校で、何が起きているかも知らないで。

 あたしはただ…時間をすり減らすだけだった。









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