衝動8 ―――[部室]――――――――― お昼休み。2年生と3年生役員を集めてのミーティング。そのミーティングの間、涼は終始むくれていて。何も知らない2年生の役員たちがビクビクしていた。 内容はいつも通り、部員配置の確認と休んでいる人数分空いてしまった部署への人員補充、ライヴ中の段取りの確認。本番が始まってしまえば、誰に確認することもできなくなってしまう場合もあるため、毎回こうして、先に手を打っておくのが必然なのだ。 数分後。 みんなが納得したあたりでミーティングは終了。ぞろぞろとみんなが部室を出ていく。そんな中、誰よりも先に出て行こうとする涼の制服の裾を掴んで引き止めた。 涼 「…は?」 振り向いた涼の目は、出会った頃を思い出させるような鋭い視線。 美樹 「…いいから」 (私だって怖いけど、負けないんだから!) 眉間にシワを寄せて、あからさまに機嫌が悪い涼をなんとか引き止める。そして、私と涼以外、部室には誰も居なくなった頃、明らかに不機嫌な声が室内に響いた。 涼 「…何か用?」 美樹 「……話があるんだけど」 涼 「…なに」 美樹 「…一舞とのこと…聞いた」 涼 「…」 美樹 「…」 涼 「…ふうん…それで?」 美樹 「…大丈夫かな…って」 涼 「……なにが?つーか心配すべきは俺じゃなくて、一舞なんじゃねーの?」 美樹 「私は涼の事が心配なんだよ」 涼 「…は?…何で」 口元は笑ってるように見えるけど目は鋭いまま…次の言葉を迷って下を向いた私は、途端に強い力で、体を壁に押し付けられた。 美樹 「!?」 涼 「…ひとつ聞きたいんだけど」 美樹 「……っ」 涼 「俺と一舞の問題に、なんでお前が首突っ込んでくるわけ?」 美樹 「…りょ…う」 (…苦しい) 涼 「…あぁ……心配してくれてんだっけ」 冷たい微笑みを浮かべながら涼は、更に私を押さえる腕に力を込めていく。 確かに、2人の問題に外野がいろいろ言うのは良くないかもしれないけど。 涼は…わかっていない。一舞がどんな思いで毎日を過ごしているのか。今、どんな気持ちでいるのか。 涼 「心配なら慰めてよ」 私を動けない状態にして、鋭い視線がすぐ目の前で私を見下したように微笑んでいる。 美樹 「っ…涼、痛い」 涼 「…」 美樹 「…やっ!」 私の声を無視して、涼はそっと顔を近づけた。思わず目を閉じた私の首に、何かが触れて、つい、悲鳴に近い声が出た。 …ここに来るまで、どうすれば涼の気持ちを落ち着かせることができるのか、どんな優しい言葉をかければいいのか、そんなことばっかり考えてた。だけど…たぶんそれじゃダメなんだ。 (涼…!) 男の子がこんなことをする気持ちなんてわからない。わかりたくもない。そんな私が、この状況をどうしたらいいかなんてわかるはずない。 優しく慰めようなんて考えていた私が間違ってた。 美樹 「…ばっかじゃないの?」 気づけばそんなことを口走っていた。 涼 「…は?」 私の言葉に、涼の動きが止まった。そしてその鋭い目が私の目を見る。だけど…私の気持ちはもう、怯えてなどいないから。目を逸らさず、真っ直ぐ見返した。 美樹 「…どうしたの?やればいいじゃない」 涼 「…」 美樹 「こんなことで涼の気が済むんなら好きにすればいいよ。私は平気だから。」 私の態度に、涼が少し動揺しているのがわかる。それに気づいた途端、私の口は、余計なことまで話し始める。 美樹 「…ねぇ、知ってる?一舞が毎日のように傷だらけになってる理由」 涼 「…」 美樹 「涼がストレスのはけ口にしてきた女子や、蓮を崇拝してる男子に毎日毎日嫌がらせされてるんだよ」 涼 「……」 美樹 「それでも一舞は…涼に余計な心配させたくないって一人で抱えて頑張ってるんだよ」 涼 「……」 美樹 「あの子の性格…涼の方がわかってるはずだよね?」 涼 「……………」 美樹 「彼女がそんな思いしてまで大切にしようとしてる涼が…また、繰り返すの?」 涼 「…………………」 …こんな事、私が言っちゃいけないのはわかってる。だけど今の涼は、まるでイジけた子供みたいで…。 (一舞に拒否されたことがショックなのはわからなくも無いけど、こんなのバカみたいじゃない…) 視線が逸れないまま。私は壁に押し付けられたまま。涼は黙って私の言葉を聞いていた。 (!) …ふと、涼の力が緩んで私は解放された。そして涼は…「…ごめん」…そう言って、部室を出て行った…。 (結局…私には何も出来なかったね…) 一人残された室内で、私は何故か…涙を止められなかった。 Novel☆top← 書斎← Home← |