衝動7



―[ピアノ科1年教室]――――――――――――side 美樹


 一夜明けて、登校するなり私は、事情を聞くために一年生の教室に来てみた。


美樹
「…香澄…由紀ちゃん…おはよう…」

香澄
「あ…美樹ちゃん」

由紀
「お…おはよ、ございます」


 一舞は休んでいるらしく、教室内にその姿は無い。

 由紀ちゃんが心配そうにオドオドしている。その背後に、ニヤニヤとこちらを見ているバンド部の男子部員の姿…目が合うと軽く会釈された。


美樹
「…あの子たち…何?」

香澄
「…一舞にちょっかい出してくるウザい奴らだよ」


 香澄はそう言って彼らを睨みつける。


(あれが香澄が言ってた子たちなんだ…)



香澄
「…一舞が休んでるのは、自分たちの手柄だと思ってるみたい」

美樹
「…どういうこと?」

香澄
「蓮くん支持の連中なんだけど…一舞の眼中にも入ってないこともわかんないバカどもだよ」



(蓮の崇拝者…ね…)


 ニヤニヤニヤニヤ。私たちが話している姿を、ずっと観察しているかのような彼らの視線が気になる。


美樹
「…涼には何も?」

香澄
「……一舞が…言いたくないって言うから教えてない」

美樹
「……そう」


 そういえば涼もまだ登校していない…。

 この事を涼は気づいていないのかな。気づいていないのだとしたら、教えたほうが良いのだけと…。


美樹
「それで一舞の様子は?」

香澄
「うん…気分的にはもう大丈夫そうだけど…」

美樹
「…気分的にって?」

香澄
「兄貴の話だと昨夜はすっごい取り乱してたみたいで…透瑠くんが気づいて兄貴のとこに連れて行ってくれたからなんとか落ち着かせることができたらしいけど…」

美樹
「…そうなの」

香澄
「一舞って、全部一人で抱え込むところがあるからアタシ心配で…特に相手は涼ちゃんだし…」

美樹
「…そうだね」


(涼がネガティブになりすぎると厄介かも…)


美樹
「それで原因は何なの?」

香澄
「あ〜…ちょっと場所変えていい?」

美樹
「えぇ。由紀ちゃんも行きましょう」

由紀
「は、はい」



……………


………






(…なるほど)


 よくよく原因を聞いてみれば、なんてデリケートな話なんだろうか。

 おかげで由紀ちゃんの顔が、トマトみたいに赤くなってしまった。


美樹
「涼の反応が気になるな…」

香澄
「涼ちゃんって、かなりのスネ夫だからね〜」


 ホント…拗ねるだけなら可愛いけど…周りにも八つ当たりする傾向があるから厄介だ。

 さて、私ができることって何だろう?

 とにかく涼が学校に来るのを待って、話すチャンスを作らなきゃ…。





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