傷心13



―――――――side 翔

 これ以上、泣き続ける一舞を見るのは限界だ。

 どんなに強く抱きしめても、何も感じないのか一舞の様子は変わらない。何がそんなに悲しいのかわからなくて、俺まで混乱してくる。

 ただ泣いているだけの一舞を、これ以上見たくない。ただそれだけの感情で俺は、一舞の手を退かし、両手で頭を持ち上げた。



「………」

一舞
「…………」



 一瞬、泣き止んだように見えたその顔は、泣きすぎてボロボロ…。



「………っ」


 思わずその唇にいきそうになるのをなんとか堪えて、その額にキスをした。


一舞
「!……」


「…………」


 自分の唇に伝わる温度と感触に若干の眩暈を感じながら、なんとか平常心を保ちつつ離れる。そして、顔を拭ってやりながら…ホッと息を吐いた。


一舞
「…ごめん」


 驚いたのか、泣き止んでいた一舞が、小さく謝った。



「いや…謝らなくていいから…ほら、鼻かめ」

一舞
「…んっ」



 (…ったく、なんて顔だよ)


 それはそれは無防備な一舞の顔。これは色々とマズイ。

 誤魔化すように一舞の鼻を、少し強めに摘まんだ。

 いつもならきっと、痛い!とか、やめろ!とか騒ぐところだが…そんな元気も無いらしいな…。



「…ごめんな…いろいろ、触っちゃったよな」

一舞
「…ううん…大丈夫」



(!)


 俺の言葉に、泣き顔のまま笑顔を作ろうとする。笑えてなんかいないのに。


(反則だ…!)



「…そ…そうだ…目、冷やす物探してくるから、ちょっと待ってろな」


 そう言って部屋を出ると、途端に腰が抜けそうになった。


(…俺、何やってんだよ…!)


 今更、自分のしたことが信じられなくなって、ふらつく体を壁に預けた。


(…俺も…頭冷やさねーと)


 正直に言ってしまえば、堪らない。あんなに弱い部分を見せられたら、さすがにふら付く。

 いつもの強気な雰囲気が消えた一舞は、今にも壊れそうで…。



 とにかく、胸のざわつきを抑えながら辿り着いたバスルーム。タオルを濡らすより先に、冷たい水に顔を浸した。



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