「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様ー」
「みょうじさんで最後みたいなんで鍵お願いします」
「え?あぁ了解しました」
いつの間にか皆帰ったみたいで鍵をお願いされる。
だけどいつもと違う声に少し戸惑ってしまった。
「…今吉先輩、もう帰ったのかな」
辺りを見渡すけど人の気配はなく本当に誰もいないことを知る。
声をかけてくれてもいいのに、と思ったけど最近はわたしと今吉先輩が最後のことが多かったから「戸締りよろしく」とどちらかが先に帰る時話していただけで声をかける必要はないんだ、と自己完結。
一つ、体育館に転がっていたバスケットボールを手に取りゴールに向かって投げるけど勿論外れる。
ゴールに僅かながら接触してまた跳ね返って足元に戻ってきた。
「…帰ろう」
今頃彼女さんのところだろうか?そんなことを考える。
考えたって無駄なのに。
彼のこと、わたしだけがこんなに考えて馬鹿みたい…。
なんで諦められないんだろう。
「自分、知識はある癖に下手やなぁ」
そこにいたのは今吉先輩。
「今吉先輩!?え?帰ったんじゃないですか!?ちょっと!笑わないで下さい!」
忘れもん取りに来たらいいもの見れたわ、と笑う先輩。
気配消して近づくとか悪趣味!
「みょうじはほんまかわえぇなぁ」
「馬鹿にしてますよね?」
もう、とため息をつくのと同時に背後に温もり。
いつもと違う雰囲気にからかわれた怒りはすぐおさまった。
「…どうしたんですか?」
「女の機嫌取るのって大変やな。面倒くさいわ」
あぁそういうことか、と納得する。
珍しく今吉先輩が早く帰ったかと思えばそういうことね。
「今吉先輩が女の扱いに苦戦するなんて、意外です」
「なんやその言い方?失礼やな」
「だって本当のことですもん」
そんなに面倒くさいなら別れればいいのに、と言葉が喉まで出かけた。
でもわたしにそんなこと言う権利はないから。
「まったく。彼女さんと仲良くしてくださいね」
「仲良うしてるわ」
だから口から出るのは思ってもいない言葉。
「知ってますよ」
だってわたしは彼の一番にはなれないんだから。
「でも…まぁ、もう少しなまえみたいに可愛げあるとええんやけどな」
「はいはい。さ、帰りましょう」
「え!?スルー!?」
今吉先輩の腕から抜け出してボールを片付けに行く。
「可愛げがある、か」
そんなお世辞…。
今吉先輩の彼女さんの方が全然かわいいしきれいだと思う。
喧嘩しても何しても仲直りして元通り。
結局彼女さんが一番なんだ、そんな事わかりきっているつもり、なのに。
二人ぼっちの影
(みょうじほんま可愛いわぁ。そんな顔真っ赤にして照れられたらもっと好きになってしまうわ)
-END-
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