「みょうじ、おはよー。ってひどい顔してんな」


「おはよう!ひどいって…昨日の夜動物ものの映画見て感動してわんわん泣いたらこんな顔なったんです」




今日は朝練が休みで教室で初めて若松くんに会って話をした。


ご存知だと思うけど実際映画を見てわんわん泣いたわけではない。
自分の置かれた立場とか状況を色々ぐるぐると考えたら泣くしかなかった。
わたしも「先輩の浮気相手」だなんてバレたら困るし今吉先輩だって当然困るわけだからわたしたちの関係は秘密だ。




「なんだ、みょうじって案外涙もろいのか?」


「案外とか失礼じゃない!?」




大丈夫、いつも通りにできてる。
今日が朝練休みでよかった。
寝る前に目を冷やしたにも関わらずこの顔だからね、こんな顔今吉先輩には見せられない。




「あ、今吉さん」




窓から反対側の塔を歩いている今吉先輩を若松くんは見つけたらしい。
この距離でわかるとか視力いいなとか思っていたけど同じ方を見るとオーラで今吉先輩だと一目でわかった。




「仲いいよな」




隣には諏佐先輩と、彼女さんもいた。




「そうだね、羨ましいねー」




羨ましい、なんて口にするけど見ていられなくてすぐに目をそらす。
今吉先輩と目が合った気がしたけど多分気のせい。

何でこんな事になったんだっけ?




「みょうじって彼氏いねぇんだっけ?」


「いませんよー。そう言う若松くんは…いなそうだね」


「みょうじも失礼だろ。まぁ俺もいないけどよ」




若松くんもわたしに失礼なことを言ったからおあいこだ。
若松くんバスケ馬鹿で女の子に興味無さそうに見える、っては言わないでおこう。


ここまでは順調だった、はず。




「みょうじってさ…」


「何?」


「今吉さんのこと好きな時期あったよな?」




ガーンって鈍器で頭を殴られたような衝撃。



『好きな時期があった』ということは過去として捉えているということだろう。




「…なんで?わたしわかりやすかったかな?」




迷ったけど否定する理由もないし肯定することにした。
若松くんは馬鹿で鈍そうに見えて周りのことにはすごく敏感だと思う。好きだった当時だってバレないようにしてたし。
実際仲のいい友達達からも指摘されたことはなかったし。




「いや、わかりやすくはなかったけどなんとなく」


「そっかー、まぁ確かに好きだった時期はあったけど過去の話。今は先輩だって彼女いるし諦めたよ。わたしだって勉強にバスケ部マネに恋愛の両立はつらいし」


「なんか聞いて悪かったな」


「そんなことないよ。あ、でも誰にもこのこと言っちゃ駄目だよ!」


「んなこたぁわかってるよ」




嘘ならばもう吐き飽きた



わたしは上手に笑えてますか?



-END-





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