『え?』


『だからー、ほんまは自分のこと遊びなんや。彼女もいるしな、何や?本気やと思っとったのか?』


『…』




言葉が見当たらない。わかっていたはずなのに、何て返したらいいのかわからない。




『もう終わりにしよか』





「っ!!…夢?」




せっかくの休みだというのに最悪な目覚めだった。




「…11時」




今日は土曜日なのに珍しく練習が休み。バレー部が練習試合で体育館を使うとか何とか。
二度寝をするか迷ったけれど本屋に行きたかったことを思い出してベッドから出ることにした。



***



「…うわっ」




ざわざわした店内で自分の声が相手に届くことはないだろう、見つけてしまった先輩に言葉が溢れる。
もしかしてデートなのかと周りを確認するけど彼女さんの姿はない。
でもわたしから声をかけるのも嫌だし今朝の夢のこともあるし…そーっと本屋を立ち去ろうとした瞬間。




「よぉ、みょうじ。こないなとこで会うなんて偶然やな」


「今、吉先輩!?本当偶然ですね」




びっくりした。
近づいていたことに気づかなくてポンと後ろから肩を叩れた。
…見つかるなんてついてない。




「何や、もう帰るんか?」


「はい」




『だからー、ほんまは自分のこと遊びなんや』
付き合ってるわけでもないのに恋人から別れを告げられたかのように傷ついて。しかも夢の中で。
今吉先輩と一緒にいたら勘違いしそうで、




「わしももう帰ろうかと思ってたんやけど自分ちょうどいいところにいたわ。ちょっと付き合ってや」


「は?ちょっと、今吉先輩!」




意地悪い笑みを浮かべてわたしの手を取り歩き出す。
これ誰かに見られたらまずいんじゃない?
…恋人繋ぎ。離れたいと思ってたのに実際に繋がれた手は温かくて、もう少しだけこの温もりを感じていたいと思った。



***



「…」


「何や?好きなの頼んでええよ?」


「…生チョコバナナパフェで」


「おこちゃまやな」




そう言う今吉先輩はブラックコーヒーを頼んでいた。
本屋から近い小さな喫茶店に連れてこられた。
こんなことならコーヒーくらい飲めるようになっておけば良かったなって思う。先輩と出かけるなんて夢にも思ってなかったから。




「今日は彼女さんと一緒じゃないんですね」


「あのなぁ、いつも一緒ってわけやないで」




お待たせしました、とコーヒーとパフェが運ばれてくる。
でもわたしが見るときはほぼいつも一緒にいるぞこのカップル。




「それはそうですけど、学校で見かけるときもいつも一緒ですし」


「あっちが勝手に来るだけや。…みょうじってわしのことよく見てるんやな」


「違います」


「よく熱い視線感じるで」


「勘違いです!」




もうやだやだ!
今吉先輩気づいてないと思ったけど見てたのバレてるじゃん。
それでも照れ隠しに否定を続ける。




「本当顔真っ赤にして可愛いいわー」


「からかわないでください!」




この人はわたしをからかうのが楽しいんだろう。自分ではわからないけど反応が面白いって、今吉先輩から言われる。
好きっていうかこういう反応が面白いから近くにおいてる?

いや、めんどくさいことは考えない!
今を楽しむ、それでいいじゃないか!



***



「みょうじ、今日はありがとさん」


「わたしの方こそごちそうさまでした」




他愛のない話をしていたら思っていたより時間が過ぎていた。好きな人と一緒にいる時間って何故短く感じるのだろう。
わたしを家の近くまで送ってくれている先輩をそっと横目で見る。




「わたしの家、ここなんで。わざわざ送っていただきありがとうございました」


「あぁ、そうか」




何か時間経つの早いなぁ、と呟く今吉先輩に多分意味は違えど自分と同じことを考えているのだと少し嬉しく思う。




「みょうじ」


「はい?」


「また明日」




状況を理解するまで5秒ほど。
ちゅっ、と今吉先輩から触れるだけのキスをされた。
…あぁ、もうやだ!絶対わたし今顔真っ赤だからね!
今吉先輩の顔見れない、絶対からかわれる!!




「…………はい。また明日です」


「何で下向いてるん?顔くらい見せてや」


「嫌です!早く帰ってください!!」



愛しき罪を重ね合わせて


時間が止まってくれたらいいのに。
そしたらわたしは幸せという名の水面の中を永遠に漂えるのに。
からかわれても幸せ、だなんて。



-END-




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