戦場で恩師に会った。
「ノックス先生…出ていらっしゃったんですね」
「医者としてじゃないがな」
嗚呼、何故世界はこんなにも
「じゃあ何を?」
「火傷と苦痛が人体に与える影響についてのデータ採取だ」
私を失望させるのが上手いのだろう。
***
「なんで俺は医者なのに人殺してんだ?」
「…それは私も同じです」
先生の気持ちはよくわかる。
私だってたまにだが銃を持って人を撃ち殺しているのだから。
仲間ではないが何もしていないイシュヴァール人を。
医師は人を助ける為にある筈なのに。
「お前の活躍はよく聞いてるよ」
頑張ってるな、と先生は頭をくしゃっと撫でた。
「今の医者としての私があるのは先生のおかげですよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。イシュヴァールの天使と言われ治療をして殲滅戦にも出て大変だろう」
「いえ、イシュヴァールの天使なんて言われてますけど助けられない人も多くて自分の無力さをひしひしと感じています。大変なのは私より怪我を負った人たちですし」
「相変わらずだな、でもみょうじのそういう謙虚なところが皆に愛されてイシュヴァールの天使と呼ばれる理由だろうな」
「ありがとうございます」
助けられない人だってたくさんいたけれどまだまだ終わらないしそれを引きずっていても前へ進めないし。
なんたってあのノックス先生から褒められたんだ。頑張るしかない!
「お前…ちゃんと寝てるか?」
ぐっと先生の顔が近くなる。
やばい、もしかして隈出てる?
「寝て、ますよ」
「お前、いつから俺に嘘つけるようになったんだ?ん?」
「…三徹目です」
本当のことを言え、と言われた気がしてつい言ってしまった。
何故か先生だけには隠し事が上手くできないから先生は読心術とか使えるんじゃないかなって昔考えていたことを思い出した。
本当今も昔も変わらない。
「まぁこんな中じゃ不眠症になるのもしょうがねぇよな」
「いえ、私の心が弱いからですよ」
そういう先生の目の下にだって隈があり顔もやつれているように見えた。
人の事言えないじゃないか、と思ったけど先生と私じゃやっていることも違うし抱えてるものも違うんだろうな、と思い口に出すことをやめた。
「そういやぁみょうじ、最近浮いた話とかないのか?」
「なっ!?…どこまで知ってるんですか?」
ニヤニヤした先生の顔を見て、先生がさっき言っていた言葉を思い出した。
火傷と苦痛が人体に与える影響。
火傷…、といえば思い浮かぶ人間は一人しかいない。
「今の実験でマスタング少佐と少し話すんだ。あいつから求愛されてるんだって?」
さすが読心術を使えるっぽい先生。
私の考えを先読みして答えを教えてくれた。
「やめて下さい、そういう言い方」
「あいつのこと嫌いなのか?」
「…嫌いではないですけど」
この前の真っ直ぐ私を見て『君がいいんだ』と言うマスタング少佐を思い出す。
少しずつマスタング少佐に惹かれていることは否定できない。
威厳も何も無いけど毎日会いに来てくれるし軽そうとか思ったけどやっぱり誠実なのかなって。
だけど駄目。
「軍にいる限り恋愛はしないって決めたんで」
「昔の男が軍人なんだっけか?」
「そうです。必ず帰って来るから待っててくれ、なんて私もまだ若かったですし彼の言葉を純粋に信じて待ってたけど生きたまま戻ってくることはなかったんです。戻って来た彼はバラバラで見れるもんじゃなくて…。私、元々軍医になる予定だったんで今後また軍人と付き合ってこんな思いはしたくないし一般の方と付き合って私と同じような思いをさせたくないなって思って」
「それがお前の本音か?」
「はい」
「…餓鬼の見栄張るなって」
「餓鬼の見栄、ですか…。そうかもしれませんね」
戦場と言う場所ではなく、お互い軍人でなくまったく別の形で会っていて好きだと言われていたら今みたくなってはいないだろう。
もっと素直になれただろう。
「まぁ、しょうがないです。巡り合わせが悪かったってことで」
私は臆病だから、一歩先へ進む勇気もない。
「悪い奴じゃねぇぞ」
「知ってます」
「意外と一途だしお前の昔の男みたく簡単に死にはしねぇぞ」
「何となくわかります」
「あー、面倒くせぇ。お前ら付き合っとけ」
「…なんでそうなったんですか?」
この夜の終わりに告白しよう
(別にいいだろ、減るもんじゃねぇし)
(あのですね、さっきの話聞いてました?)
(昔の話なんてどうでもいいだろ、大事なのは今お前の気持ちがどうなのか、だ)
(…良いこと言ってるように聞こえますけど面白がってますよね!?顔笑ってますよ!!)
-END-
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