『今日大丈夫?』
いきなり君からの電話。
「どうした、いきなり?」
期待してしまいたくなる。
『なんとなく…ロイに会いたいなって思って。…駄目?』
「わかった。じゃあ仕事が終わったら行くよ」
『ありがとう。じゃあまたあとでね』
そう言って電話を切る。
早く仕事終わさねばな、山積みの書類にため息をつき格闘する。
基本彼女から「会いたい」なんて言葉を聞くことはないからよけい仕事に力が入る。
そして約束の時間までになんとか終わりいつものバーに行く。
「なまえ!」
もう彼女は来ていていつものカクテルを飲んでいた。
「ロイ。今日は早いね」
「酷いな。その言い方だといつも遅いみたいじゃないか」
「あら、そうじゃないの?」
ふふっ、と笑う美しい顔に見惚れる。
「で、どうした?」
彼女の隣に座りマスターにカクテルを頼む。
「べつにどうもしないわよ。電話でも言ったでしょ?なんとなくロイに会いたくなったって」
駄目だ。やっぱり彼女の笑顔には弱い。
私に対して本気ではないとわかっているのだが…
「そうか」
「うん。あ、用もないのに呼ばれて迷惑だった?」
「いや、そんなことは…」
素直に「嬉しかった」と言えない悔しさ。でも言えないのには理由がある。
「来てくれてありがとうね」
「電話してくれてありがとう」
素直に言ったら彼女に迷惑がかかる。そんなことわかっている。
「ねぇ…、ロイ。ホテル行こう?」
ほんのり赤く染まった頬に色気を感じる。
「そうだな…」
こんなことでしか彼女を繋ぎとめられない。
だけどこんなことで彼女を繋ぎとめられる喜び。
「じゃあ帰るわね」
行為が終わり脱ぎ捨てられて冷たくなった服に袖を通す彼女。
「…あぁ」
シーツに余韻はなく彼女のぬくもりだけが残った。
君にとって僕は、いつも大勢の中の一人だった
「待ってくれ」なんてとめる権利も勇気も私にはない。
-END-
確かに恋だった様よりお借りしました。
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