「今日まで予定のお客さんはないけど依頼にそろそろ手付けないとまずいね…」



最近やけにうざいと感じるようなってきた長い髪をゆるく結んでスケジュール帳を見る。



「まあ臨也さんの仕事の手伝いがどれだけ入るかによるか」



部屋のドアの向こう、リビングからコーヒーのいい匂いがする。
まだ波江さんは来てない時間だから多分臨也さんが入れたのだろう。
彼自らがコーヒーをいれるなんて珍しい。
とか考えてたらおなかが空腹を訴えてきたからリビングに行くことにした。



「おはようございます」

「おはよー。なまえが起きるの遅いから自分でコーヒーいれたんだけど君のいれるのより全然まずいから捨てようかなって思ってるんだ」

「もう捨ててるじゃないですか!!」



ここ(リビング)からじゃ流しの様子は見えないけどなにか液体を流してる音は聞こえる。
さっきの話から繋げれば今捨てられてるのはコーヒーのはず。
私も臨也さんのいれたコーヒー飲んでみたかったのに。…もったいない。



「いいよねぇ。なまえのその普通の人間らしい反応好きだよ。いい突っ込みをありがとう」



あ、たまに見せる君らしくない反応も好きだよ、と付け加える。

君らしくない、とは何かよくわかんないけど彼からしたら普通の人間〜っていうのは誉め言葉だ。
残念ながら私からしてみれば馬鹿にされてるようにしか思えないっていうことがわかってないみたい。

そもそも普通の人間って「おーい、聞いてる?聞こえないなら耳鼻科に行くことを勧めるよ」


「ごめんなさい、ぼーっとしてました」

「何?俺の顔に見とれて「黙れ」」

「冗談だよ。まったく、なまえは怖いなあ」



けらけら笑いながら怖いなんて言われても説得力がないのをわかっているのだろうか。
まぁ、わかってるはずないよな。
だって臨也さんだし。



「はい」



中身はなくなったけど洗ってないためにまだ中にコーヒー色がうっすら残っているマグカップをこちらに向ける。



「いれるからちょっと待ってください」

「さすがなまえ、わかってるね」



そりゃカップ出されて遠回し催促されたら貴方が何を言いたいのか誰でもわかりますよ。




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