名前変換なし




「…」


「…」




全ては今目の前でだらだらと汗をかいている男が悪いんだ。




「悪かった」


「何が?まぁ何にも気にしてないから大丈夫よ」


「本当に悪かった(ものすごい気にしてる!!)」




仕事をしっかりしているかとわざわざ東方司令部に顔を出せば鼻の下を伸ばしてデレデレとチョコを受け取る恋人…もとい雨の日は無能で女たらしの使えない男と鉢合わせた。

その時は『相変わらずこの男はモテるな』って思っただけだったけどすぐにその思いはイライラに変わった。




「マスタング大佐は随分お暇なのね。セントラルはとても忙しくて休む暇もないのに。貴方も忙しいのかと思っていたけど女遊びが忙しかっただけかしらね」




ロイの机に見える数々のカラフルな包み。
律儀な男だから毎回受け取ることを知っている。実際ロイを思って頑張って作った女子のチョコレートを突き返したら、それこそわたしはロイをぶん殴るけど。
ただあんなだらしない顔でうれしそうに受け取るこいつにイラついた。
わかっていただけますでしょうか、この複雑な乙女心。




「いや、そういう訳じゃ…」


「言い訳はいらない」




わたしだって用意していないわけではなかった。
なかなか会えない恋人の為にわざわざ仕事にかこつけて会いに来たのに。

さすがにこの仕打ちはひどいんじゃないだろうか。




「俺はクレアが一番好きだ。愛してる」


「当たり前でしょ。わたしが一番じゃなかったらとっくの昔に別れてるわよこの女たらしが」




何を当たり前のことを言っているのだろうかこの男は。
しかも仕事中にファーストネームで呼ぶなと言ったはずなのに本当に学習しないな。




「まぁいいや。かわいい女の子からチョコレートもらってうはうはしてればいいでしょ」


「…クレアのガトーショコラが一番おいしいんだ」


「は?」


「ガトーショコラだけじゃない。トリュフだってブラウニーだってショコラマカロンだって何でもクレアの作るのが一番なんだ」




ガトーショコラは頻繁に作るやつ。トリュフは去年、ブラウニーは一昨年、ショコラマカロンはその前の年のバレンタインにロイに作ったものだ。ロイはバレンタインにチョコをたくさんもらいすぎてわたしが何をあげたかも覚えていないかと思っていた。
作ったわたしさえ、三年前のショコラマカロンとか忘れてたし。




「…覚えてるんだ」


「当たり前だろう?忘れるわけがない。今年だって何をもらえるのか楽しみにしてたんだ」




悲しそうな顔を浮かべるロイを見て何だかわたしが悪者みたいな気持ちになってそれはそれでムカついたからチョコをぶん投げてやった。



チョコレートは凶器だったんですね



(いだっ)
(ありがたく受け取りなさい!馬鹿)
(クレアありがとう!!)
(ホワイトデー楽しみにしてるからね)



-END-



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