短編
- ナノ -


 煌いて本末転倒

 
 眩しいと思った。初めてダンデ君を見たとき、彼の体からはキラキラと眩い光が溢れていた。文字通り、溢れていたのだ。砕いて言えば発光していた。
 キラキラの粒子を纏わせて無垢に笑っているダンデ君を見て、まだ幼かった私は卒倒しかけた。この世には発光する人間がいるのか。


 越してきたハロンタウンは牧場で暮らしを支える場所で、私の家も漏れなくウールーを育てることにし、彼等の恩恵で生活することにした。
 齢五歳にして出会った、後に幼馴染とも呼ばれることになるダンデ君とは越してきたその初日に出会ったのだが、幼いながらにビックリしたものだ。だって人が全身で光っているのだから。

「きらきら…」
「え?」
「きみ、きらきらしてる」

 舌足らずの口でダンデ君を指差す。隣の母に指差しについては怒られたが、私の目はまばゆい光に釘付けだった。そりゃあ度肝を抜かれるだろう、発光する人間なんて初めて目の当たりにしたのだから。アングリと口が開いたまま戻ってこない。
 ダンデ君は私のトンチキ発言に一瞬目を丸くしたけれど、すぐに照れくさそうにはにかんで、未だダンデ君を差している私の手を取った。

「ありがとう、きみもきらきらしてるぜ!」
「えっ」

 握手される小さな手を見て、伸びる腕を見て、目をぐっと下に向けて胸から足先までを見て。どこをどう見ても私は発光していないのだが。発光しているのはアンタ一人だけじゃないの。母に「わたしひかってる?」と訊くが、何故か「あらあら」なんてにやつきながら口元に手を添えていて、何も回答が貰えなかった。
 その後ようやくダンデだ!と自己紹介を受け、私も名前を教えたものの、わたしひかってる?と頭の中はそればかりだった。
 家に帰って鏡で全身をくまなく確認したが一つもキラキラが溢れておらず、むすっとした。ひどいうそつかれた。後日頬を膨らませて相変わらずキラキラ粒子をまとわせているまばゆいダンデ君に「わたしひかってなかったよ」と文句を言うのだが、彼は可笑しそうに笑って、「おれにはみえるよ」などと言う。母も「ダンデ君にはアナタがそう見えるのね」とえらくにこにこしていて、ますますチンプンカンプンだった。

 少しの後ダンデ君の伝手でソニアという女の子を紹介されたのだが、自己紹介より先に「わたしひかってる?」と初手より訊いてしまい、彼女は「え」っと目を丸くして驚いた後首をこてんと傾げた。

「ぜんぜん」

 またダンデ君にうそつかれた。




 ダンデ君以外にキラキラ光っている人はその後現れず、やはりダンデ君だけ何故か発光していた。
 その後出会う人に必ず「わたしひかってる?」と確認するのだが、みながみな口を揃えて「ひかってない」と答えるから、やはりダンデ君にしか見えないのか、はたまたやはり嘘なのか。

 まぁ成長するにつれ、それが私の調子に合わせたおべっかだったのだろうと気付くのだが。一体何の業を背負っているのか私には本当にダンデ君が光って見えるのだが、ダンデ君はそうではないだろう。一人輝いているダンデ君だけ可笑しいのだ。
 でもあなただけ他の人とは違うのよ、なんて改めて教えるのは残酷なことだから、私はお利口さんにその言葉は黙っていてあげている。本当に可笑しいのは自分の目なのに、背伸びしたい年頃だ、そうやって善人ぶって優越感に浸っていたかったのだ。

 しかし、光っている人間というのは時と場合に寄りけりで非常に可哀想な存在だ。何せかくれんぼでダンデ君だけがただ一人、絶対に勝てない日々を送る羽目になったからだ。
 ウールーの世話をしているといつも突撃訪問してきてソニアちゃんと三人で遊ぶことになるのだが、私には何処にダンデ君が隠れているのなんて丸見えで臍で茶が沸かせるレベルである。茂みに潜もうと木の裏で同化していようと、私には全てお見通しであった。いくら頭も尻も隠そうとあの眩しい粒子は一つも隠せていない。だから、ダンデ君を見つけるのは必ず私だったし、ダンデ君は決して私の目からは逃れられず得意満面の笑みを私はいつも浮かべていて、でもダンデ君はひとつも悔しがる様子もなかった。
 鼻を長く伸ばしている私に対し、寧ろ嬉しそうに「また見つかってしまったな」などと笑うばかりで、内心どうしてこんなに喜んでいるのだろうと不思議だった。
 そのかわりと言ってはなんだが、ソニアちゃんを見つけられない展開ばかり多くなり、とうとう森に近づくことを禁止されてしまったのだった。ごめんねソニアちゃん、私はただ漏れているキラキラを見つけているだけなのだよ。



 出会いから早や数年。ダンデ君とソニアちゃんはジムチャレンジのため旅立っていった。一緒にと誘われたものの、ウールーの毛を刈るのは私の役割なので丁重に断った。家の中で一番の毛刈り名人は何を隠そう私なのだ。
 残念そうにしながらダンデ君はソニアちゃんに「こっち!」と早速怒られながら遠くへ行ってしまった。破滅的な迷子癖で死にませんように。願いながら今日もウールーの毛を刈る。
 そういえばいつの間にかダンデ君には弟ができていて、もしかしたら、と見に行ったのだが、期待外れなことに赤ん坊の弟は光っていなかった。やっぱりダンデ君だけ可笑しい。

 二人が旅立って少し寂しい思いをしつつ今日も元気にウールーの世話をする。よしよし、お前を一番に刈り上げてあげるからね。この子の将来が楽しみだ。
 そうやってウールーと戯れていると、母が家から飛び出して来て何やら血相を変えているではないか。何事かと手を止めて見やれば、息も絶え絶えな母が膝に手をつきながら、何処かへ向けて指をさしている。その先は我が家である。私がウールーの毛で何を作るか考えている合間に何が起こったと言うのか。

「だ、ダンデ君!チャンピオンに、なったよ!」

 チャンピオンってなんだっけ。ジムチャレンジのゴールか。ポケモントレーナーの頂点だっけ。ダンデ君がジムチャレンジに参加することを報告に来てくれた時に鼻息を荒くして教えてくれたアレか。え、凄いじゃないか。

「いないと思ったらこんな日までウールーと遊んで!ほらおいで!」

 まだ小さな体は簡単に抱え上げられて家まで強制送還された。リビングでは父が腕を瞼に押し付けて男泣きしていて、そんなにダンデ君が好きだったなんて娘は知らなかったぞ。
 テレビの中で屈託ない晴れやかな笑顔でリザードンと寄り添い合うダンデ君は、出会ってから一番輝いていて、うっと目を押さえた。キラキラの暴力。粒子の舞う量がえげつない。画面いっぱい光り輝いているどころかテレビからも漏れている始末である。

「どう!?どう!?ダンデくん凄いね!?」
「まぶしくて目が死ぬ」
「そっかー!」

 母親が突如私を持ち上げてくるくると回りだす。今度は酔って死ぬ。父が更にわんわん大声で泣いていた。

 チャンピオンの証という真っ赤なマントを羽織ってダンデ君は帰ってきた。ソニアちゃんは?と開口一番尋ねると少しむすっとしながらも「家だ!」と教えてくれた。
 くるっとその場で一回転してマントの全体を見せてくれる。赤くて裾がもこもこしていてよくわからないマークがべたべたとくっついていて、ふわりと体の動きに合わせて揺れている。細かな眩しい粒子もくるくる軌跡を描いていた。

「どうだ!凄いだろ!」
「すっごいまぶしい」
「そうだろ!まぶしいだろ!」

 これ以上ないってくらいダンデ君がにっかりと笑って、ぶわっと光が強くなる。私はその眩しさに圧倒されて後ろに倒れかけ、なんとか足で踏ん張った。そんなキラキラの大バーゲンセールいらないよ。


 ダンデ君の快進撃は何年経っても止まらず、ダンデ君の発光も何年経っても止まなかった。テレビだろうと雑誌だろうとキラキラ眩しく粒子をまき散らせていて、もしかして本当に可笑しいのは私の目かもしれないと唐突に疑い始めた。

「お母さん、眼科に行きたい」
「え、どうしたの?痛いの?」
「ダンデ君が眩しくて目が可笑しいかもしれない」

 素直に病状を訴えるのだが、母はいつものニンマリ笑顔を浮かべて私の肩に手をとん、優しく置いた。それは病気じゃないのよって。いやどう考えても病気だろコレ。



 一般のスクールに通い、家ではウールーの毛を刈る日々。ダンデ君はチャンピオンとして華々しい活躍をしていて、ソニアちゃんは何やら道に迷っているようだった。トレーナーじゃない私には偉そうなこと言えないから、私は今日も家のためにせっせとウールーを転がして毛を刈る。
 そういえば十六歳のとき、スクールで奇妙な友人ができた。カントーからはるばる越してきたというその子は一度話をし出すと止まらない子で、拳を握りながら随分と熱弁を奮う子だった。

「カントーから離れるの嫌でたまらなかったけどガラルにも素敵な子がいて眼福眼福ぅ!!最っ高!!」
「何が?」
「コレ!」

 スマホの中にいるのは最近流行りの同年代がメンバーのロックバンドのボーカルで、そういやテレビで見たことあるなとボンヤリ思い出す。お母さんもハニーフェイス〜だとか言って目をとろけさせていた気がする。ロックバンドなのに?

「カントーではアイドルグループの子を推してて推しが直接見れなくなるのは地獄だと思ってたけど今はスマホ一つで何でも拝めるし何より新しい推しと出会えてこの上ない至極!はぁ眩しいわ〜〜光り輝いてる〜〜」
「え、ほんと?」

 画面に頬ずりする友人の言葉に自然と身を乗り出す。この子にはその人が光って見えているというのだ。私もそうだ、と教えると彼女も目を白黒させ、すぐに「マジ!?」と椅子から立ち上がった。放課後だから教室にほとんど生徒はいないものの、みんな弾かれたように私達を見ていて少し恥ずかしい。

「誰!?推し誰!?」
「ダンデ君」
「ダンデ……え、それってここのチャンピオンだっけ?わりかし可愛い顔しててちょっとイイと私も思ったあの?」
「そう」

 出会ってからというものいつでも何処でも光り輝いていることを伝えると、彼女は腕を組みながらうんうんと深く頷いて、やがてフッと儚げな笑みを浮かべ、今度はアンニュイな様子で頬杖をついて窓の向こうを見つめた。友人よ、夕陽なら逆方向だけど?

「わかる。推しっていつどんな時でも光り輝いてるんだよね。キラキラ眩しくてほんっと生まれてきたことに感謝感激」

 アンタの推しはその人なんだね。そう言われて、私にずどんと稲妻が走った。

 推し。

 友人曰く全身全霊をかけて応援し、存在に尊みを抱き、そしていついかなる時も眩しく光り輝いて見える人のこと。
 生まれに感謝までは別に抱いていないが、不憫な物背負ってんなと哀れむことが多いけれど、出会ってからいついかなる時でも発光しているダンデ君。
 成程、ダンデ君のことは推しって呼ぶのか。
 一つの答えを見出し、私達は手を取り合い頷き合った。夕陽は逆方向で私達を包んでいるのはクラスメイトの奇妙な物を遠巻きにする眼差しだったが、私にとって友人の教えは天啓だった。

 推し。覚えた。



 それからはとても穏やかな気持ちでダンデ君を見ることができた。推しとはつまり応援すべき存在。そう、私はダンデ君を応援したかったのだ。一年に何回家に帰っているのか数えきれるくらい多忙なダンデ君は、律儀にも必ず私の元へ訪れるのでその度に私は拝んだ。友人がスマホの画面に映るボーカルを前にしてそうしていたので、教えを受けたのだ。推しとは即ち拝むもの。
 突然の私の行動に最初はビックリしていたものの、応援してるんだよって理由を教えると満足そうに笑ってギュウギュウ私を抱き締めた。最近ダンデ君のスキンシップが激しくなってきているのだが、友人の言葉を借りるならばこれはファンサービス。推しからのお礼の意志表示なのだ。

「なあ、俺は光っているか」
「超まぶい」

 ぶわっと粒子が空気に溶けながら舞い上がる。とっくに見慣れた光景だ。今日も私の推しは輝いている。ガラルの太陽なんて世間は褒めそやしていて、なるほどこれはもしかすれば太陽の光なのかもしれない。それにしてもいつにも増してえげつない量だって。



 そういえばある日、スクールを卒業して大学へ進んでスクールライフというモラトリアムを満喫していた頃。同じゼミにいる男の子に告白された。ストレートに好きだ付き合ってくれと顔を真っ赤にして告げられ、予想だにしていない事態に待ってくれと咄嗟に猶予を貰った。
 正直眼中になかったが、改めて見ればかっこいいかもしれない。派手なタイプでなく堅実そう。これまで誰とも浮ついた話がなかった私に天から贈られたチャンスかもしれない。ビックリして逃げるように期間を無理やり設けたが、こんなに素敵な話はないかもしれない。

 ほぼほぼ気持ちがOKに傾いていると、部屋の扉に聞き慣れたノック音。この音の出し方はダンデ君だ。入っていいよ、と声を掛ければ予想通りダンデ君で。そのままいつも通りベッドに腰かけながら話をしたり、抱き締められたり頭を撫でられたりして「何かあったか?悩ましげな顔をしている」と鋭い観察眼に見抜かれ、口車に乗せられ全て吐かされた。
 するとどうしたことだろうか。眉を吊り上げ、私の肩をギリギリ掴み上げるダンデ君の表情は俯いているからそれ以上見えなかった。

「ソイツは、光って見えるか?」
「え?ううん、まったく」
「そうか」

 何やら納得したのかダンデ君はそのまま無言で出て行った。どうしたんだ一体。そんな、発光する人間なんてこの世にダンデ君だけで十分だって。もしかして自分が纏っているものに気付いて仲間でも欲しくなったのだろうか。残念だね、彼は微塵も発光していないよ。
 次の日、何故か男の子から告白を取り消して欲しいと請われ、こっそり泣いた。考えてみれば条件面しか見ていなくて失礼だったと反省するのだが、中々恵まれたチャンスだったのに。
 珍しくまたすぐにやって来たダンデ君は初めて会った時のように晴れやかで嬉しそうな顔をしていて、キラキラも倍増である。私は眩しくて顔を覆った。今日はさすがに目が潰れる。

「そんなに眩しいか?」
「眩しくて見えない」



 しかし、なんとダンデ君。チャンピオンを奪われてしまった。無敗だとか無敵だとか大層な言い様をされていたあのダンデ君が、自ら推薦した女の子に敗れたのだという。その日はリビングでポップコーンを食べながら家族で試合を見ていたのだが、キャップが空高く上がった瞬間にハッと我に返った。ポロッとポップコーンが床に落ちる。

「アンタ今直ぐ行きなさい!」
「え、どこに」
「スタジアム!」
「シュートシティの?」
「当然でしょ!?」

 母親にタクシーに押し込まれて空の上を運ばれた。すぐさまスタジアムに着きはしたが、リーグ関係者でもなくチケットも持っていない私が奥まで入れるわけもない。うろうろと出店の辺りを徘徊していたのだが、そうだ、と思いついてスマホでダンデ君にメッセージを送る用意をする。でもなんて文章で送ればいいんだろう。今度はスマホを片手に徘徊していると、突然スマホが震え出して跳ねあがった。発信者はダンデ君で、なんてタイミングだと嬉々として応答する。
 声が聞きたくて、などと随分大人しい様子のダンデ君に、今スタジアムの前にいるのだと告げれば間髪入れず通話が切れた。待って、嘘だろ切られた。

 むんぐり頬を膨らませていると、出店の人と同じ格好をした男の人に不意に声を掛けられ、体がぴしっと固まった。多分リーグ関係者だ。名前を確認されて、「チャン……ダンデさんがお呼びです」などと言っている。ハテナマークを飛ばしている間にこちらへ、なんて背を向けられ慌てて追いかけ始める。なんだ、迎えを寄越してくれたのか。
 そのまま従順についていくと、どんどん一般通路からは程遠い道へと入っていく。え、私なんにも関係ないのにこんな所まで入ってもいいのだろうか。

 急にびくびくしながらも足を止められないでいると、一つの部屋の前で先導者は立ち止まって、ここです、なんて静かに告げて戻っていってしまった。ココにダンデ君いるの?どうしようかと思ったが、まぁいいかとノックする。すぐに中から返事が聞こえて、よかったちゃんとダンデ君の声だと安心した。
 中へ入るとベンチの上で項垂れているダンデ君がいて、恐らく控室なのだろう。他に誰もいないようで、専用なのかもしれない。

「こっちまで来てくれ」

 言われるがまま近づくと腕を強く引っ張られ、ガバリと抱き締められた。いつもよりもきつい。ぐえっと潰れた声が飛び出た。

「…負けた」

 見てた。教えてあげると更に強く抱き締められて、そろそろ息ができなくなりそうだ。

「負けた俺は、もうキラキラ眩しくもないだろう…」
「え、めっちゃ眩しいけど」

 そう、負けてもダンデ君のキラキラは消えていないのだ。中継を見ていてそれがとても不思議だった。やっぱり推しってそういうものなんだろう。いついかなる時でも不変の存在なのだ。

 負けてもなんでもダンデ君はいつだってピッカピカでキラキラしてるよ。誰にも信じてもらえていないが、いつも通り素直に教えてあげるとわんわん泣き出した。大の大人が泣きじゃくっている。そんなに負けたのが悔しかったのかって背中をさすってあげた。はいはい、どうどう。大人が泣いちゃいけないルールなんてないよ。




 さて、奇天烈な話だ。
 目の前にはチャンピオンからバトルタワーオーナーへと職種変更したダンデ君が薔薇の花束を私へ差し出していて、とろけるような笑顔を浮かべているようなのだが、普段より増量しているキラキラ粒子のせいで正直顔が見えづらい。

「結婚しよう」

 奇天烈すぎる。私はうーんと首を傾げた。勘違いでなければ私とダンデ君は付き合ってもいないと思うのだが、どこかで何か聞き落としていただろうか。いつもダンデ君が発光している様子ばかり見ていたから、話なんかほとんど聞いていなかったことが多い。

「いきなりと思うかもしれないが、でも俺は、初めて会った日から決めていたよ」

 どうやら付き合ってはいなかったらしい。安心した。いや、安心できないなこの状況。脈略がなさすぎる展開である。

「なぁ、俺は輝いて見えるか」
「輝きすぎて顔見えない」
「それは嬉しいな」

 いや、顔見えないって言ってるんだけど?
 むむっと眉を顰める私に尚もダンデくんはえげつなく発光し続けていて、どうしたものかと頭を捻る。

 ケッコン。私とダンデ君が。まぁダンデ君みたいにかっこいい人もバトルも強い人も金銭的にも余裕がある人は他にいないだろうし、条件としては凄くいいんじゃないだろうか。彼氏いない歴が年齢と結びついた私には飛びついてもいい話だろう。
 でも、何かが違うのだ。別にダンデ君と付き合いたいと意識したことはないし、胸がキュンとしたこともないし、発光してるし。
 ううーんと頭を回していると、ふっと友人のことを思い出した。いつかに言っていた友人の言葉が、ピタリと渋る理由に当てはまる。そう、なるほど、そうだったのか。

「解釈違い」
「えっ?」
「解釈違いです」

 これに尽きる。私とダンデ君が結婚って、それは解釈違い。友人もその時ばかりは普段以上に興奮して拳を握っていた。

私は推しを推しているだけで存在に神級の尊みを感じているのであって幸せになって欲しいし私のお金で幸せになって欲しいけどだからといって付き合いたいとか結婚したいとかは全然ないから手は繋ぎたいけどそれって握手会の話だから健やかなるときも病めるときもとか思うことはあってもともすれば神父として言いたい側だから私と推しが万が一そういうことになるっていうならそれ前提から話が別だから解釈違いそう解釈違いだから解釈違い。

 とても真剣な顔をしていて息継ぎしてねって思ったのだった。

 そう、だから、推しのダンデ君と私が結婚するというのは、解釈違いなのだ。
 すっきり!と爽やかな気分になって一人うんうんと頷いていると、ガシリと肩を掴まれた。指が食い込みギリギリと鳴ってはいけない音を上げている。アイダダダと私の口から悲鳴が漏れた。おい薔薇はどうした?

「俺と、結婚しないと。それこそ、解釈違いだ」

 なんと解釈違い返しをされてしまった。ギン、と瞳が私を鋭く見つめていて、それよりも肩が痛くて骨が砕かれそうだった。
 ダンデ君の発光加減がどんどん増していく。このままだと二人揃って解釈違いです返しで収拾がつかなくなってしまう。


 何故、何故なのだ友人。助けてくれ友人。君の説法が今直ぐ必要だ。