- ナノ -

今日の全てはあなたのためにある


「帰ったぜ」

 機織りをしている最中、戸が開いてセキさんが帰ってきた。おかえりなさいと声だけかけて、きりのよいところまで織ったら、ようやく立ち上がる。すぐさま立ち上がろうとしたら気を遣ったのか手で制されたのだ。けれどそんなことをしている間にセキさんは既に羽織を脱いでしまうので、隠すつもりもなく頬を膨らませてしまった。そんな私の様子に目を丸めて、どうしたのかと首を傾げているから、ますます臍を曲げてしまいそう。

「私が預かりたかった……」
「いいって、そんな。おめえは女中でもなんでもないんだからよ。俺達は対等だろ?」
「でもやりたかったです……」
「……まぁ、そう言う、なら、次に」

 私達は夫婦で互いに助け合う関係であり、上も下もないのだと、あの日セキさんは言った。昔に固執する、口うるさくて頭の固い年寄りも一定数いたけれど、確かにセキさんはそう私に囁いてくれた。長という呼び名よりリーダーと呼ぶようになんて、周囲には言いつけるような人だ。新しい風をコンゴウに入れるため、私達はその先達となるのだと。
 だけど、一度くらいはやってみたかったのだ。私達に上も下もないとは言え、夫婦らしきことの代表例として、一応は経験してみたかったのに。そう顔に滲ませてわざと俯きながらも、ちら、と上目に見つめると、眉を下げてセキさんは仕方なさそうに頷いてくれた。これに上も下もない。ただ、私がやってみたいことだとわかってくれたのだ。
 二人で暮らす、起伏があってもなくてもそれでいい、でも夫婦として過ごせる、そういう日常でいたかった。

 食事は二人で用意しようと決めたが、セキさんが帰ってくる時間は遅くなることも多いので、私が作る場合がほとんどであり、結局私が用意するのが自然の流れのようになっている。のだが、ここのところセキさんは陽の明るい内に戻ってくる日が増えた。長の務めはどうしているのだろうかと素直に疑問をぶつけてみれば、最近はやるべきことも限られているのだと笑っていた。お陰でムベさんとの交流ばかり深まっているらしい。
 シンオウ様改めディアルガ様の御顔も間近で拝めるようになった今、シンジュ団と争う必要もなくなり、ギンガ団とも手を取り合いつつこのヒスイで生きていくのであれば、コンゴウ団の中だけで進める事柄も自然と減るようだ。政には明るくないので、食事をしながら、ほうほうとただ頷いて聞いているしかないのが申し訳ないが、この先のヒスイの未来を見つめる眼差しは美しく、そして端正で、いつしか箸を止めて見入っていた。
 粗暴に一見すれば思える人だけれど、その実所作までも整っているというか。箸の使い方一つに絞ってもそうなのだ。暗に、幼少期にしっかりと教えを施されたのだと伝えてくる。いつから長となることを確定として決められた、ということまで私は知らないが、一応は里の頂点に立つ人間であるためか、想像していたよりもセキさんは眉目だけではなく細々とした点に洗練さを感じさせた。

「ナマエ?どうした?ぼんやりとしてよ」
「あ……その、いえ……」
「……ははぁ、さては俺に見惚れてやがったな?こんな色男の真ん前にいるんだもんな、仕方ない」

 図星で何も言えなくなると、どうしてかセキさんの方が面食らったような顔をした。からかおうという魂胆は見るからに透けていたので、馬鹿正直に狼狽えるのも悔しくはあったが、実際羞恥で口を開けなくなったのだから。でもそんな私を見つけたら、セキさんは私の気恥ずかしさが伝染したように目を逸らして、頬を数度かいた。

「あー……。明日の朝は、俺が作るからよ」
「朝?」
「ああ。ムベさんに料理を教わってるんだが、大分上達してきたと思うんだ。そろそろ、おめえに食わせたい」

 瞬間胸がきゅっとした気がして、思わず服の上からそこを押さえた。何も、特別なことを宣言されたわけでもないのに、どうしてか胸の奥が締まって熱くなる。それは恐らく、相手がセキさんだからだ。今回は料理に落ち着いたようだけれど、それは遠出でも、他のなんだっていい。愛する人に何かをもたらしてもらえることに、単純な私はこんなにも喜びを感じている。それって要は、気持ちが私に向かっているとささやかなれど伝わってくるものだから。

「楽しみにしてます……でも、貴方寝覚めがすこぶる悪いけど、一人で早くに起きられますか?」
「……努力すんだよ」

 途端に口をへの字にして、体裁を保つためか誤魔化すためにか椀に箸をつっこんだセキさんに、我慢しきれずに少し笑ってしまった。疑うわけではないけれど、まぁ楽しみにはしていよう。
 翌朝、目が覚めたら本当に鼻を擽るものがあったのだから、一気に目が覚めた。明るい火の揺らめきと、そこから煙るものと湯気。鍋を掻き回して吸い物を作っているらしいセキさんが、私が起きたのに気が付いて振り向いた。既に目尻に青を引いた顔で、にまりと笑う。ちゃんと一人で起きられたぜ、と自慢したいようだ。

「おはよう」
「おはようございます」
「出来上がるまでもうちょいかかるからよ。おめえはゆっくり支度しな」

 張り切っているらしく、軽く見やっただけでも品数が多そうだ。朝から豪勢な、それも人が用意してくれた食事にありつけることにありがたさを覚えて、ほんのり心が灯る。それもセキさん手ずから用意してくれる、出来立てだ。
 顔を洗ったり着替えを済ませてから、昨夜と同じ位置で向かい合う。目の前の、すっかりと装いを整えた膳はやはり朝にしては豪勢で、よほど気合が入っているのだと見受けられた。
 私から箸をつけてもよい、と促されたので、素直に吸い物に口をつける。その様をまじまじとセキさんが見入っているので、可笑しくて思わず笑ってしまった。

「どうだ?」
「とても美味しいですよ。優しい味がします」
「そうか」
「これからは毎朝セキさんにお願いしましょうか」
「……起きられた日はな」

 安心したのか、嬉しいのか。私の冗談に曖昧な返答をしながらも、目を細めるたおやかな笑顔に気持ちがそっと包まれていく気がした。愛する人に愛を向けられるのは、どうしてこんなにも体の内側を擽って満たしていくのだろう。


  ◇◇


 まだ陽も高く、外からは子供たちの賑やかな声がひっきりなしに届いている。まだ一人だけでは里の外に出てはいけないと口喧しく言い聞かされている子供たちは、けれど行儀よくそれを聞き入れては里の中でいつも遊んでいる。最近は笛の練習の音も混じるようになった。出来不出来はそれぞれだが、随分とまぁ楽しそうに吹くものだと。しかも、気付いたらシンジュ団の人間もその輪の中にいるのだから、最初は心底驚いたもので。子供の輪に限らず、里の中で彼等を見かけることもかなり増えた。最早繰り返す日々の中でも見慣れたことだ。
 ここ数年は子の出生率が悩ましいと老人達が顔を曇らせては若い人間をつついていたが、最早そういう心配もなくなっていくと思われた。なにせシンジュ団だからと敵視せずともよくなったのだから、親交は日に日に進んでいる。今後はコンゴウ団という名前さえ要らなくなる可能性もある。元々隠れてあちらの人間と親交を深めていた者たちもいるのだし、ついこの前まで確固たる境界として敷いていた、この狭い世界を解放していけば自ずと垣根も消え失せて、私達が一つになる日もそう遠くはなさそうだ。その先駆けが、あの笛なのかもしれない。
 正に今日、セキさんはそういう話をするためにコトブキムラへ向かっている。どうやらギンガ団も長く存在を続ける気はないらしく、今後ムラを拡大していく計画だとか、その際の土地の所有権だとか、難しい話を進めるための算段をつけるそうだ。だから、久方ぶりに一人きりの朝と昼と夜が数日待ち受けているわけである。

 眩しい陽の下で、やるべきことは全て終えてしまったから、手持無沙汰でただただ空を仰いでいた。突き抜けるような晴天に、これならば洗濯物が早く乾いてくれそうだと呑気に考えながら。セキさんがいないので洗う物は私のものばかりで、正直楽と言えばそうなのだが、なんだか物足りないと言うか。食事もそうで、当たり前に自分が作ったものを食べてきたにも関わらず、向かいに誰も座っていない食事は、どことなく味気ない。まだ初日なのにな、と内心自嘲で笑えた。なにせもう、私の生活は一人だけのものではなくなっているのだから。知らず知らずそれが体にも心にも浸透していたのかと、慣れとはこういうことを言うのかと馬鹿みたいに痛感してしまった。

「ナマエさーん、いる?」
「はいはい、いますよー」

 戸の方から子供の愛らしい呼び声が聞こえたので、返事をしつつ立ち上った。洗濯物を干すのに裏手にいたから、いきなり横からにゅっと顔を出すと声の主が「わぁ」とちょっとだけ目を丸めていて、なんだか悪戯が成功をしたようでつい笑ってしまった。子供相手になんて大人げない。

「あのね、笛が凄く上達したの!聴いてほしくて!」
「あら、そうなの?それは楽しみだね。是非聴かせて」

 訪ねてきてくれたのはコヨミちゃんで、私とセキさんが夫婦になる際に彼女ら家族が共に暮らしていた家とは住処を分けたのだが、慕ってくれているようでこうしてよく顔を見せにきてくれる。そのお陰で、一人きりか、とどこか感じていた胸の中の隙間風が凪いできた気もする。
 目を星のように輝かせたコヨミちゃんが、私に上達したばかりという笛の音を聴かせてくれた。確かに、以前に聴いた音色とは大分違う。先生がいい賜物か、本当に瞬く間にうまくなっているようで素直に感心した。拍手と一緒に褒め称える私に、コヨミちゃんも満面の笑みを浮かべてくれた。それにしたってかなりうまくなったものだ。セキさんなんかはどれだけ練習しても上達せずにヨネさんに大笑いされていたのに。
 だなんて、またもセキさんのことを考えずにはいられなくて、もう一つ自嘲の笑みが生まれた。まだセキさんを見送ってからそれほど時も経ってはいないのに。少しの間帰ってこないのだと現実を再確認するだけで、しんみりとしてしまう自分もとんと厄介なものだ。

「ナマエさん、元気ない?」
「え?そんなことないよ?」
「……わかった、さみしいんでしょう」

 どきりと心臓が鳴った気がして、ぐっと口を噤んだ。対してコヨミちゃんは、笛を片手ににまにまとしている。子供にからかわれているのだとわかってはいても、事実指摘通りなのだから咄嗟に何も出てこず終いである。コヨミちゃんにはそんな私が子供ながらもわかっているのか、早く帰ってくるといいね、などと慰められてしまった。情けないんだかなんだかなぁ。

 無駄に外を歩いたり、機織りをしたり、セキさんの服の解れを縫い直している間にも、時はちゃんと進んでいくので、予定通りの日にセキさんは帰ってきてくれた。まだ陽も明るい内に無事に帰ってきてくれたので、やっと胸を撫で下ろす。今日はもう朝からそわそわとしてしまって、セキさんが帰らないなんて今回が初めてのことでもないのに、我ながらどうしたのかと思える程に待ち望んでいたようだった。

「どうした?」

 しかも足音が聞こえた瞬間立ち上がって、戸が開けられるよりも早く自分の手で開けていた。そこには驚きに目を真ん丸にして私を見下ろすセキさん。外の匂いと混じって、セキさんの匂いだとか、ほんのりと体の熱なんかが伝ってきたら、途端に胸を鷲掴みにでもされたかのように苦しくなる。もう数年は会っていないような感覚が間違いで、セキさんが帰ってこなかったのはたったの数日だったのに、私はこんなに会いたくて会いたくてたまらなかったのか。
 セキさんは家の中に入って、真っ先に上着を脱ごうとしたけれど、急に「あ」と思い出したような顔をして私を伺った。私も察して、手を伸ばすと、可笑しな奴だなぁ、なんて言いたげな顔をして青い上衣を私に預けてくれる。瞬間ぶわ、と襲うセキさんに匂いに、また胸の奥が締まる。本物はすぐ目の前にいるのに、たったのそれだけで私は。
 戸の前で立ちすくんでいても仕方ないので、セキさんがいつも座るところに腰を落ち着けたのを見届けてから、さて私はどうしようかと悩む。一先ず衣は畳んで置いておくとして、茶でも淹れるべきなのか、はたまた腹は空いていないか確認すべきなのか。でも、どれもすぐに決められなくて、まごつく私を不思議そうにセキさんは眺めている。
 どうしようか散々悩んだ末、私も喉がからからだということにようやく気が付いて、茶を淹れることにした。移動してきたのだし、セキさんも疲れているに違いない。労わってやるべきだと決めて、すぐさま火を起こして水を温めた。

「大分話がまとまってよう」
「そう、ですか」
「そんで、そういやと思い出してさ。ほら、シンジュを未だ認めない、なんて連中もいるだろう。カイと写真でも撮ってみせりゃ少しは頭も変わるかと思って」
「写真?」
「ナマエはまだ見たことないっけな。ほら、これだよ」

 茶を片手に隣に座った私にコトブキムラに行っていた間のことを話してくれるセキさんだったが、耳慣れない言葉に首を傾げると、懐から数枚の四角い紙を取り出して見せてくれた。これが噂の写真かと、その精巧な出来に仰天できたのは、しかし一瞬のことだった。それはセキさんが一人の写真だったり、シンオウ様の正体を私達に教えてくれたあの英雄の子供だったりしたが、中でもカイさんとセキさんが二人で立つ写真に、どうしても目が離せなくなったのである。
 これは頭の固く古めかしい人間達に見せるためのものだから、もちろんいがみあう姿を撮るわけもない。だけど二人が肩を近づけて、それぞれ微笑んで、こちらを向いている。私ではない人と、私がまだ経験のない写真を撮って、でもそれは明るい未来の為で。急に感情がせめぎ合う感覚がして、口がうまく開けなくなる。

「おい、本当にどうしたんだ?」
「……いえ」
「ははぁ、さては寂しかったんだろう?まったくほんの数日だったのによ」
「……」
「……え、そうなのか?」

 急に締まっていた胸の奥がぎりぎりと絞られているような痛みを覚えて、じっとしていられなくなる。だから、俯いてセキさんの肩に額を乗せた。太くて逞しい腕に腕を絡めて、写真を持った手に指も滑らせる。そうっと写真を摘まんでいる指を解いて、はらりと写真が舞うのも構わず、爪先で掌の皺をなぞるように撫でた。たったのそれだけで、ごくりと、セキさんの喉が動いたのがわかった。
 普段はもっと視野も広くて、たくさんのことに真っ先に気付ける人なのに。学には疎くても、人を見る目には長けて、色男なんて自称しているくせに、寂しかったと揶揄でも言い当てた妻の気持ちには鈍感なんて。

「セキさん、お疲れでしょう?少し横になったら?」
「……」

 すり、と額を肩の上で軽く躍らせた。上目に見やると、仄かに眉を寄せて何とも言えなさそうな顔をしている。あちらが指を伸ばしてくる折に敢えて体を離して、どうぞ、と膝を叩いてみせると、これまた口を結んで何とも言えなさそうな顔。でもにこやかに笑っていると、静々とセキさんが体を倒して、私の膝の上に頭を乗せた。わざとらしく私を見上げる態勢でまた笑ってしまう。仰向けになったことで髪が流れて露わになった額をそうっと撫でて、頬から顎にかけて一撫でしてから、首にまで指を滑らせる。男らしい喉仏に指の腹でやわく触れてから固い胸板へ手を置くと、たまらないのか目をきゅっと細めていた。


  ◇◇


「おめえ、最近どうしたんだ?」

 セキさんの腕の中で程良く微睡んでいたら、ぽつりと小さなぼやきが落ちてきて、ゆっくりと瞼を開けた。怪訝そう、とまではいかないが何か腑に落ちないような、そんな顔をしている。対して私は、髪を下ろしたセキさんの髪を一房もらっていじりながら、何がですか?と一先ずとぼけてみた。言いたいことはわかっていたけれど、先程までは焦がす勢いだった熱も引いてきて、身を清め直した今となっては、そんなすぐに叙情的な気分にはなれない。

「なんつうか……疲れるから連日は、なんて言ってたのに」

 子供は欲しいけれど、体力があまりない自覚もあるので連日応えるのは難しいと、夫婦の契りを結んで共寝するようになってから話はしてある。なのにここのところは毎夜私から誘うので、いささか訝しんでいる様子だった。流石というか、そこで呑気に鼻の下を伸ばさないのがその辺の男等とは一線を画すところである。

「……はしたないってお思いですか?」
「んなことねえけど。寧ろ、大歓迎だ」
「まぁ素直な人」
「でも言ってたことと反対なことされれば、ちったぁ気になるもんだろ。どんな心境の変化かと」

 セキさんからしてみればそうではあるだろう。でも私は胸をすんなりとは開けなくて、預かっていた一房を解放してからその胸元に顔を寄せた。私と同じように熱を引かせた、微睡むのに丁度よい体温。頬を羽のように掠める青い毛先。私を悦ばせる手管はたくさん持っているくせに、妻だけを見ているのだと確かに思わせてくれるくせに、やっぱり肝心なところで一歩鈍い男だ。もうここら辺が潮時かと見定めて、観念しておくことにした。

「……今度は、私も、コトブキムラに行きたいです」
「あ?コトブキムラ?なんだ、遊びに出たかったのか」
「それで、私とも写真を撮ってください」

 目をぱちくりとさせるセキさんに、なんだか急にこそばゆくなってきて、顔を隠すためにも完全に顔を胸元に埋めた。腰にも手を回して縋るように抱き着く。私は今のセキさんとの生活にとても満足しているし、優しくしてもらえて、気にかけてもらえて、愛をかけてもらえて、何一つ不自由がない。対等だとも言ってくれた。だからこんな些細な、セキさん達とてそんな気欠片もなかったことに対して不服を抱えるのもお粗末な話だが、引っかかってしまったのだからもうしょうがない。
 面倒かと思われただろうかとひっそり後ろめたく感じていたら、けれどセキさんの手が私の肩に置かれて、労わるように何度か擦ってくれる。頭に感じるセキさんの呼気は、嘆息ではなく穏やかだった。なのでようやく、胸元から顔をそっと上げられる。なだらかな瞳が、私を丸く見つめていた。

「……愛い奴だな」

 少し低いけれど、優しい声音。
 肩から頭の後ろに移った大きな掌が、丸みに沿って往復する。次第に掌は顔の横や耳の後ろにまで変わったが、どれも酷く心地良くて、隙間風はもう綺麗に消えた。それ以上何も言わないけれど、すぐにでも私の望み通りにしてくれるのだと、見つめ合う瞳が教えてくれる。私のとった行動の全てを理解してくれて、そして許してくれる。じん、と指の先が甘やかに痺れて、でも悪くはない。腕がおいでというように包んでくれたので、胸元にもう一度頭を預けながら、心地良さに委ねて瞼を閉じた。次に目が覚める先には、また想い想われる日々が待ってくれている。