- ナノ -




(?)同期の回顧録


 アイツ行っちまうってな、と隣の男の顔も見ずに、心の中ではざまぁみろと馬鹿にしつつ口にしてやると、「閉じこめておけばよかった」などと言い出すものだから呆れを通り越して天を仰いでしまった。そんなんだから逃げられるんだって。


 休みを有効活用しようと思い立ってナックルシティ側からワイルドエリアの入口にタクシーを利用して降り立つと、見知った赤い影を空に見つけてしまった。ガラルであんなことできるのはただの一人しかいない。
 急いでその影を追いかけるとげきりんの湖に降りたようで、なんでそこなんだよっと膝から崩れ落ちそうになった。そりゃあ鍛えるには絶好のエリアだけど、予想通り過ぎる。
 しょうがねぇと腹を括ってそちらへ渡ればキャンプを始めていて、ほんと頭おかしいぜって顔を覆った。よくそんな所で平気でキャンプできるものだ。俺は無理。
 内心辟易しながらポケモン達と楽しくキャンプするチャンピオン様の背中に近付いて、なるべく距離を開けて呼びかけた。すぐさま相手はこちらを振り返り、石よろしく体の動きを止めた。面白いくらいに驚いた顔をしていてとても満足だった。

「君は……」
「久しぶり」

 そっち行っていい?となるたけ敵意のない声音で問えば、一瞬躊躇った後に了承の返事が貰えたからゆっくりと近付いていく。リザードンが何事かと見つめてくるものだから両方の掌を見せて、何もないよってアピールする。

「どうしてここに?」
「キャンプしようと思って。そしたら飛んでるのが見えたから追いかけてきた」

 勝手に持参したキャンプ用の椅子を立てて座り、戸惑っているダンデを見上げる。きっと接し方を模索している最中だろう。困惑を滲ませたまま俺に近付けないでいる。

「俺のこと覚えてる?」
「……ああ」

 あの日アイツと一緒にいたことのみを口にされ、やっぱりかと落胆した。悔しさなんてお門違いなのに、こうして目の前でそれを現実にされるとやっぱり歯噛みしてしまう。

「……だよな、覚えてるわけないよな」
「え……?」
「そうだよな。俺のことなんか、覚えてるわけないよな」

 意味がわからないのだろう、目を丸くしているダンデに自嘲の笑みが浮かんでしまった。大層な男だ、本当に。まぁ逆の立場だったならば俺も同じだったかもしれないが。
 俺は嫌なくらい覚えてるよ、お前のこと。

「おいで、ブリムオン」

 ボールから長年のパートナーを出してやれば、伸び伸びとした声を上げて頭の後ろの触角を揺らしだした。そしてリザードンを見て一瞬驚いた様子を見せた後、少しばかり威嚇しだす。そうだよな、お前コイツには絶対勝てなかったんだもんな。

「……その、ブリムオンは」
「コイツのことは覚えてんだ。いや、思い出したの間違い?」

 嫌になるくらいやっかんだ物言いだった。所詮、俺なんてその程度の認識だったのだろうな。

「ジムチャレンジ途中でリタイアした同期の顔なんて、そりゃあ覚えてないよな」

 ダンデの顔がわかりやすく顰められて、鼻で笑ってしまった。


  ◇◇


 アラベスクタウンでミブリムをパートナーに選んで、俺のジムチャレンジは開幕した。
 最初は初めてだらけのことで大変な思いをたくさんしたが、それよりも新しい世界へ飛び出したことへの期待と高揚が大部分だった。トレーナーとして本格的な一歩を踏み出して、そうして最後はチャンピオンになるんだ。鼻息荒く故郷の街を後にして、順調に旅を続けた。
バッジだって滞りなく集めて、ワイルドエリアでのキャンプだって余裕を持って楽しめた。野良試合だってそうだ。たまに負けてしまうことはあっても楽しかった、なんて感想で締めくくれるようなバトルで、俺は少し、狭い世界にいたのかもしれない。

 ダンデと出会ったのはたまたまだった。ラテラルタウンのジムを突破した時分だっただろう。たまたま目が合って、話をして、そこそこ盛り上がったと思う。開会式の時点でローズ委員長に見初められたなんて噂を耳にしていたから俺はダンデのことを一方的に認知していたが、ダンデは俺のことを全く認識していなかった。チャレンジャーってのは毎年数多くいるものだからその場で交流でも持たない限り覚えることも難しいのだが、当時子供だった俺はわかりやすくムッとし、そのままバトルへと持ち込んだ。
 嬉々として応じるダンデに、その鼻へし折ってやると意気込んで、結局折られたのは俺の鼻だった。
 凄く、唖然としていたと思う。負けたことに対してではない。もちろん負けたことが堪えたのもあるが、あまりに圧倒的な力を見せつけられたからだ。
蹂躙するに等しい、一方的なバトルだった。いつでも全力で、野良だって全てを出して戦うんだなんて聞いていたが、それにしても、こんなに力の差が歴然とするものだろうか。

 エンジンジム挑戦前に進化していたテブリムを無意識下でボールに戻し、立ち尽くしている俺に「楽しかった!またバトルしよう!」なんて嬉しそうな言葉だけ残して駆けていくダンデの後ろ姿など、地面を見つめていた俺には見られるわけもなかった。
 負けることは少なからずあった。でも、こんなにも負けという言葉を重く痛感するのは、この時が初めてだった。
 ポケモンへの指示のタイミング、技の選択、相手の動きの予測。その全てが桁違いといっても過言でもなく、なるほどローズ委員長に目を掛けられる筈だ。
 気付けば足元の地面は色濃く濡れていて、雨なんか降っていないのに奇妙な光景だった。
 それからは思い出すのも無残な毎日だった。バトル中ダンデの顔がチラついて、負けることに酷く怯えるようになった。
 あんなに順調に集めていたバッジもそれ以降集まらなくなり、焦燥感ばかり募る日々。それでもこのままじゃいけないと自分を鼓舞することはまだできたのだ。
ワイルドエリアに籠って野生のポケモン相手に経験を積み、無事にテブリムをブリムオンへと進化させることができた。技だって考え直して再構成した。今度こそダンデに勝つ。息巻いていたが、次にダンデと運よく会えたときに行ったバトルも惨憺たる結果だった。
 そして最後に必ずダンデは言うのだ。楽しかった、と。

 そんな時だった、アイツに出会ったのは。
 お香でも使うかとバウタウンまで戻って来た日。たまたま音楽ホールでピアノのジュニアコンクールを行っていると通りかかった際にポスターを見かけて、どうしてか立ち止まってしまった。
 音楽なんて毛ほども興味なくて今までノータッチだったのに、心底不思議だった。気分転換でもしたかったのだろう。そのままホールに入り、見学自由なのを良いことに空いている席へと座る。しかし、本当に音楽には全く疎くて、順番に演奏が終わるのをボンヤリと眺めているだけで、およそ“聴いている”とは程遠かった。眠気が襲ってくる始末で、このまま休憩がてら寝てしまおうかと野暮な考えが浮かんできた時。
 突然耳に飛び込んできた音が、これまでの演奏のどれともハッキリと違って、一瞬で眠気が吹き飛んだ。

 天井の照明に照らされて、ピアノが黒々しく光り輝いている。そこに指を躍らせる、一人の女の子。
 小綺麗なドレスを着て、艶々の唇をしていて、薔薇色に色づく頬。そして鍵盤の上で舞うように音を奏でる指のあまりの美しさ。
 風がブワッと吹いたようだった。室内なのに、本当に俺の横を勢いよくすり抜けたような気さえした。
 同い年だろうか。舞台からは遠くてよくわからないが、多分そうだろう。
 なんて、楽しそうに弾いているのだろう。なんて、愛おしげな音だろう。

 彼女以外見えなくなる。世界に、二人しかいないようだった。演奏者の彼女と、聴き手である俺。そう錯覚するくらい、彼女の演奏だけが耳に柔く貼りついてしまった。
 その日に俺は、名前を知らぬ彼女と彼女の生む音に、恋をしたのだ。

 パンフレットを貰って演奏者の名簿を確認する。あの子が最後だったから見つけるのは簡単だった。演奏順など分からずじまいでも、あの子が優勝して名前を呼ばれていたからその時点で知っていたのだが。それでも、紙の上のたった一人の名前から目が離せない。マーカーを引くように、指先で文字の羅列をなぞる。ナマエ。音楽なんて全く関係がない遠い世界だと思っていたのに。
 また、あの子に会いたい。また、あの子のピアノが聴きたい。

 モチベーションが驚くくらい向上して、また鍛錬の日々だった。ダンデ以外とも名の通ったチャレンジャー達と数多くバトルし、勝っても負けても身に残る試合をしたと自負する。
 その傍ら、ジムチャレンジの隙間にナマエのピアノを探すことも増えた。片っ端から音楽ホールで催しを調べて、当たりをつけて聴きに行く。大抵のコンクールには参加していたから会えた回数はそこそこ多い。
 本当に、とても楽しそうに弾くのだ。軽やかに舞う指はピアノに確かに愛されているように見えた。何より、彼女がピアノを愛しているのだろう。造詣も浅いが、素人の俺にもそう思わせるくらいだ。
 俺がポケモンを好きなように、彼女はピアノを好きで。ナマエも、彼女のピアノも、いつもキラキラと眩くて、まるで道標のようにすら思っていた。挫けそうになった時、落ち込んだ時、ナマエのピアノを聴くと不思議と元気が出てくる。お陰でキルクスタウンのジムも勝てたし、調子を取り戻し始めていた。

 しかし、人生とはそう甘くないものだ。若輩のくせに生意気かもしれないが、事実そうだっただろう。
 スパイクタウンのジム戦が、どうしても突破できなかったのだ。ブリムオンというタイプ相性でも有利なパートナーがいるにも関わらず、だ。何度挑んでも何度も負ける。相性だけがバトルではないとわかってはいるが、それでも最善を尽くそうと躍起だった。

 なぜだ、どうして。なにがいけないんだ。
 勝つためには仕方ないと手持ちを全て変えたり、より攻撃力の高い技を覚え直させたり、試行錯誤したが、やはり勝てなかった。
 もう何度負けたか数えきれなくなってきた頃。速報でダンデがナックルジムで勝利をおさめたと知った。タイプの相性を物ともせず、的確な指示と先を見通す観察眼で、一番にジム攻略を終えたのだ。一番のチャンピオン候補、なんて騒がれていて、スマホを乱暴に投げ落とした。
 俺とダンデの差は、なんだろう。どうして俺はアイツが勝てたジムにいつまでも勝てないんだろう。
 ああ、あの子のピアノが聴きたい。でも、そんなことをしている場合ではない。ここで勝てなければジムチャレンジは失敗する。他のことに時間を費やしている暇はないのだ。

 そして、負けた数が両手では済まなくなってきた頃。俺は、自ら膝を折った。
 もう勝てない。これ以上先へは行けない。
 大人しく家に帰ろうか、ワイルドエリアで耽るか。ぐだぐだしている間に、ダンデはチャンピオンになった。
 ほんと、すげぇな。


 ジムチャレンジはリタイアしたが、ナマエのピアノだけは追いかけ続けた。最早執念に近かったかもしれない。それぐらい、あの子のピアノが唯一無二の光だった。
 敗北のぬかるみから立ち上がれない俺は、ナマエに手を伸ばすことしかできない。たとえ俺のことなんて全く知らなくても、俺には、ナマエしかいないと勝手に思っていた。
 ダンデがチャンピオンとして君臨してから一年も経たないくらいだったか。俺が知る限りで、ナマエがコンクールで優勝を初めて逃した。最高の演奏だったのにと俺は後から憤るのだが、採点者が選んだのはナマエではなく、俺も初めて見る女の子だった。

 今でも鮮明に思い出せる。自分ではない名前が選ばれた時の、ナマエの顔が。
 なんて見る目がない奴らなんだろう。あのコンクールにおいて一番は間違いなくナマエだったのに。家に帰ってからも興奮が静まらなくてブリムオンに煩いと叩かれてしまったが、どうしても納得いかなくて。
 次は絶対ナマエが優勝する。今回は偶然だ。俺は信じている。
 しかし、その後もあの子が優勝を手にすることはなかった。全部が全部聴きに行けたわけではないが、それでも俺が観に行ったコンクールにおいて、ナマエが選ばれたことは、あれから一度もない。

 いつからだったろうか。ナマエのピアノが音を変えたのは。
 ダンデが二度目のチャンピオン防衛を成功させた年。なんだか奴に負けた悔しさが鳴りを潜めてきた頃。諦念に自分を甘やかすことが増えた。
 アイツと俺には超えられない段差があったんだ。生まれつきの才能が違う。ダンデはそういう星の元に生まれたのだ。そうやって、敗北を正当化し続けた。そうでもなければ、到底歩けそうになかったから。
 でもナマエは違う。負けても負けても、どんどん腕を上げている。ピアノの良し悪しなんて未だに微塵もわからないが、少なくともナマエのピアノはずっと聴いてきたのだ。俺にはわかる。ナマエはもう一度返り咲く。
 それから、ダンデのことを俺を惨めたらしめる存在ではなく、純粋に力の勝利者として見ることができるようになった頃。思えばナマエと出会ってから数年も経過していた。
 大きなコンサートホールで演奏できる権利をかけているらしいコンクールで、ナマエの目から俺もよく知るものが零れ落ちた。
 あれは、諦めの涙だ。もう自分ではどうにも足掻けないと、立ち止まった人の目。すぐに手で覆われてしまったから一瞬だったが、俺は目敏く見てしまった。

 だって、俺も、同じだったから。

 片鱗はあった。段々とピアノの音が変わってきていたから。鬼気迫って笑顔を失った姿と、楽しむ音から如実に変化したそれの正体を俺は知っているが、そこまで考えるのは止めた。負けを認めてしまった人間に、それは残酷なことだ。
 俺の唯一の光が曇り翳ってしまった日。それでも俺は、しつこくナマエに焦がれ続けた。長年ナマエしか頭になかったのだから。ほうら、執念だろう。

 だから、ハイスクールを卒業して適当に就職してしまった会社でナマエを見つけた時、腰を抜かしかけるくらいに驚いた。そして、浅ましくも思ってしまったのだ。

 運命かも、なんて。


  ◇◇


「俺はさ、お前のこと尊敬してるよ。バトルが鬼みたいに強くて、でもそれを楽しんでる。何年もチャンピオンを続けて、俺だったらプレッシャーですぐ潰れちまう。だから、ずっとお前のこと応援してたよ」

 突っ立ったままのダンデに、俺は大人しく座りながら懐かしき昔日を回顧する。
 尊敬しているのは本当だ。こんな奴二人といないだろう。俺にないものを持って、俺に掴めない物をたくさん掴んだ男。圧倒的な力に畏怖すら抱かせるガラルの無敵のチャンピオン。よその地方と違ってエンターテイメントに長けるガラルのバトルスタイルは、周囲の目を嫌でも引き寄せる。他人の目に怯えることもなく味方につけるカリスマ性は、正しく本物だ。

「お前は俺のこと覚えてなくても、俺はずっと覚えてた。そうだよな、俺はお前の中じゃ記憶に残るような人間じゃなかったんだ。しょうがないよ、お前に一度も勝てなかったし、惨敗だったし」

 動かぬ事実に再び自嘲し薄ら笑みを浮かべてしまう。卑屈だなぁと内省するが、いざ張本人を目の前にしたら駄目だった。蓋をして溜め込んできたたくさんのものが、飛び出してしまう。

「でも、ずるいよお前。チャンピオンだけじゃなく、アイツまで持っていっちまうのかよ」

 俺だけがずっと見てきた。幼かったアイツの嬉しそうな顔も、楽しげな顔も、苦しげな顔も、悲しげな顔も。お前がバトルで頂点を守っていた間、俺はアイツの幸せだけを願っていた。どんどん綺麗になる姿に胸の高鳴りを覚えて、ますます目が離せなくなった。アイツの弾けるような笑顔が、アイツの美しいピアノが、折れかけた俺をいつも真っ直ぐに立たせてくれたから。

「全然知らなかった、お前達が関係持ってたことなんて。でもよく思い返してみれば、お前のことを俺が詳しく教えてからだった。ナマエが妙にそわそわしたり、やたらと楽しそうだったり、昔みたいな苦しそうな顔するようになったの。全部お前の影響だったんだな」

 そんなことも知らずダンデの話をする俺は、ずっとナマエを刺し続けていたのだろう。何があったのかは知らないが、ナマエを苦しめていたのはこの男だった。いつだって俺の何歩も先を歩いて、後ろに置いてきた奴のことなんかすこんと忘れて、天辺の世界ばかり見ている人間に。

「それでもナマエはお前を選んだんだ。ほんと、ずるいよ、ダンデ。俺が欲しい物、全部持って行っちゃうんだ」

 膝の上に組んだ両方の拳がギリギリと悲鳴を上げている。何を言っているんだろう俺は。俯いて、こんな負け犬の遠吠えなんかぶつけるものじゃないときちんとわかっているのに。

「……ブリムオンは、よく育てられていた。トリックルームとサイコキネシスの組み合わせには、いつもヒヤリとさせられた」
「うっせ、今更そんなこと言われても嬉しかないよ」
「すまない。薄情だと、よく言われるんだ」
「ほんとそうだよ」

 覚えているわけがないとわかっていた。何度もバトルしたが、一度も勝てなかった。善戦ですらなかった。キバナみたいに食らいつき続ける気概がなくて、俺は俺を終わらせてしまった。ダンデは悪くない。悪いのは、諦めた俺なのに。

 ナマエのことだってそうだ。最初から知らないフリなんかしなければよかったんだ。
 でもナマエのことを見ていれば過去に触れられたくないのなんて一目瞭然で、そうやってナマエを気遣っているんだって自分を褒めていただけ。欲しいならば掴みに行かなくては、何も手に入らないのに。

「……ごめん、勝手なこと言いすぎた。全部自己嫌悪のせいだよ。俺が手に入れられなかったものを全部手にするお前への羨望と憧憬。俺は動かないまま、指をくわえてただけ」
「そんなことは、」
「いいよ、わかってる。わかっててお前にぶつけてる俺が一番頭悪い。あー、言いたいこと全部言ったらすっきりした、でも、ありがとな、ブリムオンのことも俺のことも思い出してくれて。それだけで、報われるよ」

 キャンプの邪魔して悪かったな。椅子を脇に抱えて退散しようと背中を向けると、不意にダンデの声が掛けられた。

「また、バトルしよう」

 本当に、この男は。

「バーカ、やだよ。俺はお前のただの一ファンなんだから」

 名前も思い出せないくせに、よく言うよ。



 颯爽とその場を退場したのに、その後しつこく探し回られ連絡先を強制的に奪われてしまいまた天を仰いだ。名前を適当に誤魔化していたらとうとう言い当てられてしまったふが、どうせナマエに訊いたんだろう。悪態をつく俺のことを楽しげに見ているダンデにくそ野郎と心の中で罵りを送る。もうさすがに口には出せないよ。

 その後、どうして俺がこんなことを心配せねばならんのだと頭を抱えることになるのだが、その時はまだ知る由もなかった。