- ナノ -

moment


「あ」
「え?」

 ナマエが目を真ん丸にすると、隣にいた同じクラスの友達も同じように目を丸めた。ボックスからナマエが引いた小さな紙を確認した店員も、目を真ん丸にした後、ワオ!と声を上げてから口笛を吹いて大きな拍手をした。
 ナマエ、なんとコスメショップのオープニングセレモニーの記念くじで、二泊三日分のペア宿泊チケットを当ててしまった。

「三等のラッキーバッグが良かった……」

 店員と一緒になって興奮する友達をよそに、狙っていたものと外れたナマエは小さくぼやいた。


  ◇◇


「ママ〜」
「ん〜?」
「これあげる」
「なになに?」

 帰宅早々、洗い物をしていたママに背後から声を掛けると、水を止めて手を拭いたママはナマエを振り返って、なんだろうってわくわくとした顔をする。ナマエは「これ」とチケットをママに見せて、「?」と頭にくっつけたママが受け取って記載された文章を読んだ途端「え!?」と大きな声を出した。

「キルクスのホテル宿泊チケットだ!どうしたのこれ?」
「なんか当たった」
「なんか当たるものなの?」
「わかんないけど……コスメ詰め合わせが欲しかったのに」
「凄いじゃん!……え、これくれるの?」
「うん。パパと行ってくれば」

 あっけらかんとナマエが言うと、ママはナマエとそっくりな目を真ん丸にした。

 ペア、というところがネックだったのだ。高校生がペアで行くにしては少しハードルが高いと言うか、別に行こうと思えば行けるのだけれど、じゃあ誰と行くのって話になる。幸いにしてナマエは友達がちょっぴりしかいないとかそういう立場でもないので、誰かを選ぶと誰かを選ばないことになってしまう。隠れてこそこそ行くには後ろめたいし、それなら元々宿泊チケットが目的じゃなかったのだし、ナマエじゃない誰かに行ってもらっちゃおうって自分の中で決まった。
 最初はソニアを誘おうかな、とも考えたが、つい先日に暫く修羅場だと言った剣幕を思い出してすぐに却下した。学会で発表があるらしく、相当気合も入っていたし、今関係ない話を持ち掛けて気を逸らすのは可哀想かなとも思って。
 ママと二人で、と考えなくもなかったけれど、そうすると絶対パパが拗ねるに決まっているし、パパと二人でなんてそれこそ論外。小さな弟もいるのだから、片方に負担が相当かかってしまう。それならいっそのこと二人で行かせて、もう長年仲の良い二人で楽しくやってきてくれればいいなって思った次第だ。

「……でも、あの子が」
「おばあちゃんに連絡してみようよ」
「ダンデ君の仕事とか」
「パパ絶対休み取るでしょ」

 行きたい、だけど色々と問題が。と顔に書いて渋るママに、ナマエは何度も後押しした。パパの仕事の都合もあるので、ともかく話はパパが帰って来てから、と、一先ずそこで話は終わる。
 案の定というか、帰ってきて宿泊チケットの話をされたパパはそれはもう大喜びというか、ノリノリで、ママも苦笑しながら「じゃあ……」と最後には頷いてくれた。ママと二人きりで旅行、それも娘からのプレゼントのセットに、パパが喜ばないわけもなかった。何が何でも休みを取ると意気込むパパと、やっぱりなんやかんや満更でもないママ。大口開けて「あ〜」とそんな両親を眺める弟。おばあちゃんに預かってもらわないといけないだろうが、やっぱり二人にあげてよかったなと、ナマエはお菓子を食べながら心の中で呑気に思った。

 旅行当日、朝一で来てくれたおばあちゃんに弟ははしゃいで、おばあちゃんも孫の反応に嬉しそうな顔で弟を抱っこしてほっぺにキスの嵐だった。もちろんナマエのほっぺにもキスをくれて、大好きなおばあちゃんと一緒にいられるからナマエも嬉しい。

「お義母さんすいません、ありがとうございます」
「母さんありがとう」
「いいの!楽しんできてね!」

 遥々ハロンからやって来てくれたおばあちゃんは、今日から三日間、ママとパパが帰ってくるまでナマエの家に居てくれて、ナマエと弟の面倒を見てくれる。最初は弟だけハロンの家に預ける、という話をしていたが、ホップもソニア同様学会に向けて修羅場中らしく、いくら愛している甥っ子でも集中を乱すのは悪いからとおばあちゃんが一人でこちらに来てくれることになった。弟も例に漏れずホップおじさんが大好きなので、目に入るともう一目散に、とことこと駆け寄ってしまうのだ。ナマエも学校があるからハロンには行けないので、おばあちゃんが来てくれると言ってくれたわけだ。
 ナマエを家に一人残すことになるかもって気掛かりだったらしいママは、悪いとは思いつつもおばあちゃんがいてくれることに心底安心して、おばあちゃんも気前よく孫の面倒と家事をしてくれると言ってくれたから、みんなして感謝した。

「行ってらっしゃーい。お土産よろしくね!」
「わかってるよ」
「行ってきます」

 弟と、弟を抱っこしたおばあちゃんと、ナマエの三人で、二泊三日分の荷物を抱えたママとパパを見送った。荷物もあるから列車で向かうとのことで、その移動も含めて楽しむとパパは笑っていた。ママと遠出なんて本当に久々だから相当浮かれていたし、ママもそわそわとしていたことにナマエは気が付いている。


  ◇◇


「飲み物いる?」
「もらおうかな」

 駅で買ったペットボトルをダンデに渡すリリーは、ダンデの優しい眼差しになんだか急に照れくさくなって、渡し終えるとすぐに目を逸らした。もう十六年は連れ添った相手なのに、旅行という非日常の真っ只中のせいか、わかってはいてもなんだか妙な気分になってくる。

「どうした?」
「なんでもないよ」

 365日愛している夫だが、日常から離れていくせいか、なんだか不思議な心地だった。もう相手の存在に慣れ切ったと思っていたのに。愛する夫で、だけど家族で、パパで。二人きりになると男の顔になることも多いが、今日から二泊三日、ダンデはきっと、ずっとパパではなく夫で男であるだろうと思うと。

「楽しみだな」
「……うん」
「ナマエにとびきりいいお土産を買ってやろうな」
「うん」

 ペットボトルの蓋をしめたダンデが、列車のシートに備え付けてあるテーブルに置いて、隣のリリーの手を握った。不覚にもそれにドキリとして、リリーはますます俯く。

「ちょっと前まであの子を授かるためにあれこれしてたのに、二人きりの旅行で照れくさくなっちゃうんだな」
「……だって久しぶりに、二人きりなんだもん」

 からかうつもりで言ったのに、存外リリーの反応がそれらしいから、ドキリとしたのは今度はダンデの方で。愛する妻と随分と久しぶりに、二人きりで旅行。しかも娘からのプレゼント。張り切らないわけがなくて、死に物狂いで仕事をまとめて休みをもぎってきたが、心の底からそうして良かったと思った。ナマエがいて、もう一人生まれて。ナマエは目に入れても痛くないくらい愛しているし、弟だってもちろん。二人が三人になって、四人になって。結婚してから十六年と少し、毎日が幸せだ。それも全て、リリーがダンデを選んでくれたから。
 にやついてしまうのにどこか照れくさくて、ダンデは顔を覆って窓の向こうを見た。だけど重ねた手は外さないし、リリーも嫌がりはしない。



 キルクスのホテルイオニアにチェックインして部屋に入ると、リリーはわくわくとして仕方なかった。こういった立派なホテルに泊まったことは少ないので、嫌でも気分が上がっていく。正直なところダンデの稼ぎもあって懐に余裕もあったが、あまり金にモノを言わすのが好きではないし、ダンデもそれは同じだったので、めったなことがなければ娯楽で散財するようなことはしてこなかったから、こういう場所に泊った経験はあまりない。そもそもダンデもリリーも富裕家庭の出身ではなかったし、ダンデは子供の頃から高級品やそれを見せびらかすような人間に囲まれることに辟易してきた。リーグ委員長になってからは、立場上仕方なく自分を仕立てることを覚えたけれど。
 だから、こういう立派な場所は殊更に非日常を感じられて、リリーの目がキラキラとする。それを見てダンデもにかりと笑った。

「買い物に行くか?」
「うん!美味しい物も食べよう!」
「温泉も行こう」
「うん!」

 窓からの景色、シックな内装やふかふかのベッドにも子供みたいにはしゃぐリリーに、ダンデはやっぱりここにきて良かったと、既に感慨に耽っていた。

 ダンデにとってキルクスタウンは見慣れた街で、数えることもできないくらい訪れた街だが、リリーはそうではない。アローラから出てきて以降シュートシティに住んで働き、ダンデと結婚してからはそんなに月日も経たない内にナマエを妊娠した。ナマエが生まれたら子育てに忙しくて羽を伸ばすことも中々できなかった。休みの日は家族サービスで二人を遊びに連れていったりもよくしたが、考えてもみれば旅行はほとんどしてこなかった気もする。ダンデの仕事が多忙のせいもあるし、みんなで遠出といえばハロンの家だったり、アローラのリリーの実家に帰省ばかりだったから。

「ダンデ君アイス売ってる!」
「食べるか?」
「食べよう!」

 ガラルの中は、もうほぼ見尽くしたと言ってもダンデには過言ではない。リリーと結婚してナマエが生まれてからは世界の見え方も変わったが、十六年と少し一緒にいても、リリーがいると見慣れた街の色も違って見える。それを、幸せなのだとわかってからダンデは、もう何度も飽きずに噛み締めてきた。

「何にする?」

 昔と比べたら、そりゃあダンデもリリーも歳も取った。十六歳の娘がいるのだからそこそこいい歳だ。もっと若い頃と比べれば考え方も振る舞い方も変わったし、子供を育てるのだから変わらざるを得ないこともあった。
 だけど、無邪気に訊ねてくるリリーに対する愛しさは欠片も変わらない。時々それが、どうしようもなくかけがえのないものであると、頭の中で誰かが訴えてくるような瞬間がある。

「バニラにしようかな」
「じゃあ私苺!ちょっとちょうだいね」
「ああ。俺のもあげるよ」

 まるで新婚時代のやりとりのような。だけど、尊さを感じているのは、多分それだけではない。本当に時々、強烈にそう感じることがある。幸せが普遍的で恒久的な保証はないのだと。妻がいて、娘がいて。息子も誕生して。それが当たり前であることは決してないのだと。頭の奥で誰かが訴えてくる。

「あ!そんなに持ってかないでよ!」
「ごめんごめん、ほら、俺の好きなだけ食べていいから」

 差し出されたピンク色のアイスにかぶりつくと、リリーはショックを受けたように怒った。思っていたよりも齧られて不満なのだ。ダンデもけたけたと笑いながら、まだ口をつけていない自分のアイスをリリーの口元に持っていく。

「昔も同じことしたよね」
「そうだな。まだ結婚したばかりの頃だ」
「あの時も同じくらいアイス齧った」
「まだ根に持ってるのか?」
「根には持ってないけど、すごーく覚えてる!」

 途中から笑いがおさえきれていなかったから、もう怒っているわけではなさそうで。ただ、記憶の中のことと同じことをして、懐かしがって、愛しがっているだけで。
 わかっている。世界に絶対はないのだと。ダンデはちゃんと知っている。リリーを失うなんて全く考えられないけれど、多くの別れを繰り返してきたダンデは、ちゃんとわかっている。だから毎日愛することを忘れないのだ。自分の為に生きても勿論いいが、少なくともダンデにとって誰かの為に生きる人生は、こんなにも眩しくて美しい。



 日が暮れる前には温泉施設へと入った。持参した水着で、二人でぬるいお湯に浸かるのに、リリーは足が底につきそうになくてお湯の中で移動するのに四苦八苦した。ダンデが可笑しそうに笑いながら抱えてやって、リリーも頼もしいダンデの体にしがみついて、折角だからと温泉のお湯の中を少しだけ歩いた。途中べたべたと体を密着させるカップルとすれ違ったから、少しだけドキッとしつつ。

「気持ちいいね」
「他地方の温泉はこれよりうんと熱いらしい」
「えぇ?そうなの?あんまりお湯が熱いとのぼせちゃうなぁ」

 足が着かないからダンデに運ばれる間も楽しそうにしていたリリーに満足して、だけど最後はゆっくり端っこで並んで、ぬるいお湯の中で景色を眺めたり話をした。ほとんど子供の話ばかりで、二人してやっぱり、離れていても娘と息子が気になってしまう。ナマエが最近クラスの子とどうやらちょっといい感じらしいことをついうっかりリリーが漏らしてしまうと、ダンデの機嫌が急降下して険しい顔つきになってしまったから、慌ててその頬をぐいっと引っ張って正気に返してやろうとする。リリーの行動に一瞬険しさが消えたダンデだが、すぐにまた口を「へ」の字にして、いかにも不満です、という顔を見せた。

「ナマエももう十六歳だよ?彼氏の一人や二人できても可笑しくないでしょ」
「二人も出来たら困る」
「一人ならいい?」
「そういう話じゃない」
「やだ〜パパったらそんな顔しないの」

 今度は眉間に寄った皺を悪戯につつくリリーだが、可愛い妻に諭されても釈然としないものは釈然としない。これで万が一ろくでもない男だったら、ダンデは世界を滅ぼす悪にだってなれるかもしれない。娘が選ぶ人なら信じてやりたいのは山々だが、父親たるダンデの心情はそんな単純な構造になっていない。

「……しょうがないなぁ、もう」
「え?」

 するりと、腕に腕を絡めてきて、リリーの頭がダンデの肩に乗っかった。そのせいで彼氏とか世界滅亡とか、そういうものが吹き飛んだ。甘えてくるような妻の仕草に、現金にも胸の高鳴りが止まない。

「大丈夫だよ。ナマエもちゃんとした人を選ぶよ」
「……そうかな」
「そうだよ」

 ダンデがリリーを選んで、リリーがダンデを選んだように。母親との関係を含めて、それでもリリーだけが良かったように。愛する娘にも、いつか心から愛する人ができるのだろう。それは息子だって。そうやって人と人がずっと繋がっていくのだ。
 だけどやっぱり娘が持っていかれるかもしれないってことは、娘を溺愛するパパとしてはかなり複雑である。



 温泉上がり、ホテルまで戻る道中、少し肌寒いくらいの風に二人で縮こまりながら歩いた。明日はどこに行こうかとか、ジムに顔を出してもいいかとか、楽しい話ばかりしながら。入り江の方まで足を延ばしてみようだとか。そんな、平和で他愛のない話ばかり。

「寒い〜」
「寒いな」
「もっと寄っていい?」
「もちろん」

 ダンデが腕を軽く持ち上げると、リリーの腕が温泉に入っていた時のように絡められる。そのままぴったりとダンデの体にくっついて、「歩きにくいぞ」とダンデは笑うも、嫌な気は一つもしない。

「……本当に、久しぶりだね、こういうの」
「ああ」
「色々あったね」
「色々あったなぁ」

 リリーと出会ってから世界が変わって、結婚して、ナマエが生まれて、その弟まで生まれた。ダンデの人生は途中から家族と共に送るものになった。リーグもバトルタワーもすっかり軌道に乗ったし、マサルの活躍も目覚ましく、ダンデの記録はあっさり抜かれてしまった。もうダンデがチャンピオンだったことを知らない子供も多い。時の移ろいを強烈に感じるほど、思い出すのにも苦労するほど、色々とあった。

「ダンデ君と結婚して、本当に良かった」
「またいきなりな」
「だって本当のことだもん!」

 もしもリリーと結婚していなければ、今頃どうしていたのだろう、なんて。他に愛する人ができたのだろうか。それとも、愛する人を持てず、ポケモンに囲まれて今も生きていたのだろうか。そんな“たられば”で考えるなんて無為なことだと昔から考えていたのに、息子が生まれてから考えることが何故かダンデは増えた。誰にも内緒だが、あの子はどうしようもない奇跡の子だと思ったのだ。もう一人をねだられた時は、ナマエを生んだ時のことを鑑みては無性にリリーの体を心配して、けれどその子も無事に生まれて、リリーの体にも何もなかった。それを奇跡だと呼ぶべきなのだと、頭の奥から届いてくる。

「ありがとうダンデ君」
「こっちこそありがとう。愛してる」
「あー!ずるい!」
「何が?」

 何がずるいのだろうと、首を傾げるダンデに口をほんの少し尖らせたリリーが、するっとダンデの腕から抜けていった。おい、と手を伸ばして離れていく体を掴もうとしたのに、リリーの体があまりに身軽に翻るから掴み損ねた。それに一瞬だったが、喪失感のようなものを覚えて、肝が冷える。同時に、瞬きの間に過ぎていった悪夢みたいな場面。青白い顔と冷たい体は嫌だ。
 けれど、ステップを踏むようにダンデの一歩先に着地して身を翻したリリーは、宙で浮くダンデの空の拳を包んで、優しく微笑んだ。ダンデの口が小さく開いて閉じる。
 子供の母親で、妻で、女で。ダンデの愛する人。失い難い人。その人が、ダンデを見上げて笑っている。

「わたしも、あいしてる。ずっと愛してる。今までもこれからも、ずっと、愛してる」

 泣きそうになるのが可笑しいのだと思った。十六年と少し、毎日当たり前に貰っていた愛と言葉が、今どうしようもなく貴重なものに思えて仕方なくて。愛があってずっと一緒にいられたからナマエがいて、息子も生まれた。たくさんの人が祝福してくれて、リリーへも、家族へも、ダンデの愛が尽きることはない。一人で戦ってきたダンデが誰かの為に戦えるようになったのだ。それを愛と呼ばずになんと呼べばいいのか、ダンデは知らない。


  ◇◇


 二泊三日の旅行の後、たくさんお土産を買ってきてくれたパパとママにナマエは大はしゃぎだった。キルクスタウンの名産にご当地限定のポーチ。弟とおばあちゃん、もちろんホップやソニアにも土産を買って、出掛けた時よりも倍くらいに膨れた鞄を持って二人は帰ってきた。
 しかし、嬉々と土産を受け取ろうとしたナマエの腕をスルーして、なんなら引き寄せて、パパががっつり抱き着いてきたから、ナマエは奇声を上げるくらいぎょっとした。

「ナマエ!愛してるぞ!」
「は!?」
「みんな愛してる!」
「なになになにっ、こわいこわいこわい!!!」
「なんかわかんないけど、旅行の途中からダンデ君ずっとこの調子なの。お義母さん何日もありがとうございました!これ召し上がってください」
「あらぁありがとう!……あれ、本当にどうしたの?」
「さぁ?」

 困ったように眉を下げて、だけど嬉しそうに笑うママに、突然パパに抱き着かれたナマエがこれどうにかしてって目で訴えても、ママはくすくす笑うだけで助けてくれない。かと思えばパッと離れて今度は弟を抱き締めて頬ずり。その次におばあちゃんを抱き締める。おばあちゃんは「ちょっとやめなさい!」と口では言っても、嬉しさを隠しきれていない。そうして、最後にママを愛おしそうに抱き締めた。ママだけ壊れ物を扱うような触れ方だったのが、ちょっと腹が立つ。
 随分と楽しい旅行だったみたいで、嵐みたいにハグされたナマエはまだ驚きのせいで心臓がバクバクとする。でも両親の仲睦まじい姿は嫌な光景じゃないし、時々いい加減にしてよねって呆れちゃうときもあるけれど、こうやって家族が揃っているのは、ナマエもとっても幸せだ。