- ナノ -


トレジャプレジャ


 おや、とその顔を見た瞬間に即座に勘が働く。この前はダンデの推薦者がやって来たのにもう新たな来訪者かと、こんな幼馴染二人と比べるでもなく顔も有名ではない私の元へよく来るものだと感心すら覚える。
 甲羅を磨いていたカメックスの頭を撫でてからボールに戻し、本格的に休憩から戻る準備をせねばならない。混み時でもないから急ぐ必要はないが、わざわざ訪ねてくれた若人をあまり待たせるのも悪い。

「お待たせしました」

 私と対面するためにわざと対面席に座るそれは年端もいかぬ少年である。その顔に見覚えはないのでジムチャレンジの参加者ではない。数日前にはダンデの初推薦者が訪れてハーブティーを気に入ってくれたが、彼の前には何も置かれていなかった。

「注文はまだかな?お腹は減ってる?」
「あ……、はい。その、ナマエさんの淹れたブレンドティーが、飲みたくて」
「そっか。今淹れるからもう少し待ってね。自家製野菜のサンドイッチ、おすすめだけどそれもどう?」
「いただきます」

 用意している間彼を観察したが、私の一回りくらい下の歳の割には落ち着いた態度だなといの一番に思った。いや、これは落ち着いていると言うか、緊張があるのかもしれない。加えて迷う心があるからこそこうして萎縮してしまっている。

「あったかいもの飲んでリラックスしてね」
「ありがとう、ございます」

 一緒に渡したミルクとシュガーを好きに淹れたそれを彼は一口含み、喉が上下し終えるとホッとしたらしく細い吐息を吐く。顰められていた眉間が僅かにゆるくなったので、少なからず体の強張りは解けてくれたようである。

「それで?なんのご用件かな?」

 更に緊張を解すためにも、精一杯力のない笑みを彼に向けた。


 少年はどうやら駆け出しのトレーナーらしかった。最近両親の知人からポケモンをもらってトレーナー登録をしたばかりの新米。両親はトレーナーではなくその道を知らないため、これから何をすればいいのかと悩んでいるとのことだ。
 ブラッシーの端に建つこの店の存在は彼の生まれる前からあるので以前から知ってはいたが、私の存在までは知る由なかったらしく、研究所ならば、と戸を叩いた先にいたソニアに私のことを教えてもらってこうして訪ねてきたらしい。

「基礎知識は今どれくらい?」
「ネット検索で少し……」
「タイプ相性とか進化ラインは平気そう?」
「はい」

 少年と知識の擦り合わせを行い、過不足を付け足したり指摘した上で参考になる記事や文献を伝えると、私が顔を出すまでは落ち着かない様子で晴れなかった顔がいささか明るい物に変わってくれたので、内心安堵をして「ありがとうございました!」と元気よく席を立ったその少年を手を振って見送る。どうやらサンドイッチと昨夜の内に冷蔵庫で固めたプリンを気に入ってくれたようで、また遊びに来てくれるとまで言ってくれたので私も素直に嬉しい。

 それにしても、ソニア戻って来ていたのか。今年のジムチャレンジに合わせて何やら研究のために旅にまた出た筈だったが、もしかしたら偶然戻って来ていたところにあの少年が鉢合わせしたのかもしれない。
 顔くらい出してほしいなぁ、と考えていた矢先。入り口のベルが来店の音を軽快に鳴らしたのだ。そこから現れたのは正に私が思い描いていたその人で、自然と口の端が緩むというもの。

「いらっしゃいソニア、おかえり」
「ただいまー!ちょっと研究所に立ち寄るつもりで戻って来たんだけど、やっぱりどうしてもナマエの作ったタルト食べたくて来ちゃった!」
「紅茶は何がいい?ちなみにダージリンの夏摘みが入荷してるよ」
「じゃあそれで!」

 軽やかにカウンターの席に座るソニアは随分と元気そうで何よりである。最近まで燻ぶっていたのが嘘のように生き生きとしていて、活発ながら頭の回転も良い彼女はやはり調べ事のために各所へ奔走したり齷齪することが性に合っているのかもしれない。

「順調?」
「今のとこはね〜。でもどうしても納得いかないことも出てきて悩みどころ……」
「でも久々の旅は楽しいんでしょう。そういう顔してる」
「まぁね」

 私はジムチャレンジに参加しなかったから道中のソニアのことは知らないが、昔閉幕後戻ってきた彼女はなんだか曇り顔だったのをよく覚えている。なんとなくもその理由には少なからず察しもつくから深く追求したことはなかったし、そのくせ何も相談されないことを寂しくも思ったもので。

「ナマエは?繁盛してる?もうこの店も継いで大分立つけど最近変わりない?」
「誰かさんが次々と新規お客様を送り込んでくれるからね〜」
「だってナマエのアドバイスは的確だから」

 私を買ってくれるのは嬉しいが、専門職の人間の方がもっとうまいアドバイスができると思うのだけれど。私は特にトレーナーとしてバトルを生業にしているわけでもないし、常日頃バトルのために奔走する、というわけでもない。
 両親から継いだこの店の中心に一人で立つようになって大分経っていて、両親の頃から常連の人達が紅茶専門のここへ嗜みに来てくれるのがもっぱらだったのに、気付けばポケモン関係の相談に乗ってほしいという人が増えだしているのだから不思議なことだ。その一因はソニアではあるが、その噂が噂を呼んで新人はこの店に来れば悩みを解決出来る、かのような評判も今や立ってしまっている。
 偶には実践指導ということでバトルコートを借りて相談者と一戦交えることもするが、繰り返すが私はソニアのように研究職の人間でも、もう一人の幼馴染のようにバトルに専念する人間でもない。バトルは楽しいが、ガラルのエンターテイメント精神溢れるやり方が得意とも言えない。

「そういえば、最近ダンデと会った?」
「ダンデ君?旅の途中で何度か会ったけど」
「何か私のこと言ってた?」
「……ふふ」
「……何その顔」

 含み笑いを堪え切れていないソニア。反射でむっとすると、余計に喜ばすだけのようで。

「彼氏が外で自分のことなんて言ってるかそりゃあ気になるよね」
「そういう意味じゃないけど……いやそういう意味か……?」

 相談者が増えたのはダンデのせいでもあるような気がして尋ねただけなのに、このソニアといえば。男女の色事にそりゃあもう興味も強いからダンデの話をするとすぐにこうだ。それが子供の頃から馴染みのある二人となればより一層興味が引かれるのだろうが、それにしたって何でもかんでも恋愛沙汰に結び付けないでほしいな。

「この前ダンデの推薦者の子まで来たの」
「ああ、そういえばダンデ君が言ってたや。もし育成に詰まることがあればナマエの所に行くといいって」
「それだ」

 合点がいって思わずソニアに指を向けてしまった。本人に訊けば良かったことだが、すっかりとタイミングを失ってしまって、というか意固地になって連絡を怠ったのだが、後になってもしやと思い至ったのだ。なにせあの子、あまりに筋がよくて私もついつい興が乗ってしまい、完全に初心者向けの話から逸脱してしまったくらいである。十分理解しては質問をくれるあの子に、成程ダンデも気に掛ける筈だ、と妙に納得もしたもので。

「あの子いいね、強くなる」
「うわ、ダンデ君と同じ目してる」

 失礼な。私はあそこまでバトル馬鹿ではないよ。そう首を振ったら「いやいやいや」とソニアにも首を振られてしまった。


  ◇◇


 さすがに一人では限界を感じて雇っているバイトの子にも帰ってもらってクローズドの看板をしに行くと、後ろから声を掛けられて手がぴたりと止まる。噂をすればなんとやらとはこのことか、と内心笑ってしまう。

「すまない閉店時間に、どうしても紅茶が飲みたくて」
「もう店じまいですよお客さん」
「……怒っているか?」
「さぁ?」

 私は別に怒っていませんよ。いつも閉店間際か閉店後にやってくることはもうしょうがないから文句はない。ただ。ただ、顔を出せる時には顔を出してくれよだなんて、そんなこと思ってやしない。
 別に、ジムチャレンジ開幕前にハロンにもブラッシーにも来ていたのに顔を出さなかったことを根に持っているだなんて、そんなことも。

「頼む、顔を見せてくれ」
「またのご来店お待ちしてまーす」

 意地悪に店内へ戻ろうとすれば、大きな掌に手首を掴まれてしまった。夜とはいえ人の目もあるし、戯れもこのくらいでいいかもしれない。

「久しぶりの私の顔はどうですか?」
「……怒っているのに怒り切れていないところが可愛いよ。キスしたいくらい」
「……しょうがない、ブレンドくらいは淹れてあげよう」

 力を抜いて笑うと、困った風に笑っていたダンデも肩の力を抜いて静かに笑った。
 みんなカウンター席が好きなようで、ダンデも例に漏れずカウンターに座って頬杖をつき正面からじっと私を見つめる。相談に来る子やソニアなど、私に話がある人はカウンターを選ぶが、ダンデはこういう時それ程饒舌にはならない。店内BGMも切った最低限の灯りだけを残す音の少ないこの店で、こぽこぽとお湯が沸く音だとか、私が茶器や食器を鳴らす音をダンデは楽しんでいる節がある。いつも喧騒の只中にいるダンデは元々長閑なハロンの田舎生まれであるし、騒がれることには慣れてしまっても好きかと問われれば本当は苦手な類だろう。静かな空間で時折鳴る音は彼には心地良いらしい。

「残り物だけど食べる?」
「もらおう」

 余って廃棄予定のものもこうして片づけて貰えるのは正直ありがたい。ブレンドやら諸々をカウンターに並べてやると、小さく笑みを浮かべたまま口をつけだす。ガツガツと勢いよく頬張るのは気持ちがよい光景ではあるが、静寂に遠慮して食べ方までそうはならないのはダンデらしいと言えばらしい。

「それ美味しい?」
「うまいぞ!」
「こっちは?」
「うまいぞ!」

 ロボットみたいに同じ返答しかないとわかっているのに、ついついと訊いてしまうのは調理者の性のようなものだ。たくさんの人に美味しい、と言ってもらえることが嬉しくてあれこれアレンジを考えるし、新作考案のためによその店の偵察までする。お客様に美味しいって笑顔になってもらいたいから。そこまでしたところでダンデからの感想なんてたったの一個しかないとわかっていて、こうしてわかりきった答えを出させるのも不毛なこと。
 でもそれってダンデ君となんか似てるよね、と昔笑ったのはソニアだ。チャンピオンが行う、そして求められる観客を楽しませるためのバトルのことを指すのだろうとはすぐにわかったから、曖昧に笑ったのも覚えている。こういうのって特にトレーナーだからとか料理をする者だから、などの縛りはないものだが、私達が似た者同士であるということが言いたかったのだろう、とどのつまりは。

「そういえば、この前あの子来たよ。ダンデの推薦した子」
「そうか!どうだった?中々筋がいいだろう?」
「そうだね。初心者にしては着眼点も良いし、経験が少ないせいか戦術のバリエーションはまだまだだけど、その分閃く力がある」
「我ながら推薦状を出して良かったと痛感しているんだ」
「私も楽しかったよ話をしてて。ついつい話が盛り上がっちゃって」

 思い出して自然と口が笑みを浮かべると、にまり、とダンデの口端が上がった。

「バトルしたくなったか?」

 そしてこの決まり文句である。

「……そうだね」
「ジムチャレンジするか?」
「それはいいかな」
「……」

 しゅん、と上がっていた口の端が下がって残念そうな顔をしても、私は揺れないからね、と可笑しくて笑う。

「別にジムチャレンジしなくてもダンデとはよくバトルしてるでしょ」
「町の隅のバトルコートでな。でも観客の詰まったスタジアムで全力を尽くして戦いたい」
「ご遠慮したいかなぁ」
「ナマエの実力ならバッジを八つ集めるのにも苦労しないだろう。君のエースはカメックスだから、俺のリザードンとはタイプ相性が優勢。だが水タイプの対策はしてあるから問題はない。ナマエはタイプにこだわりを持たないから特性もタイプも幅広く育てているし、どんなチームを組んでくるか考えるだけで今から興奮する」
「ダンデ私の話聞いてる?」
「だめだ待てない今すぐバトルしよう!」
「聞いてないね〜」

 バトルのこととなるとすぐにこうなるのだから。これでこそダンデ、と言えなくもないが、ブレンドが飲みたいって閉店時に訪ねてきたくせに静かな空気なんかすっかりと忘れて目を輝かせるその顔は、昔から何も変わっていない。少なくとも私とその手の話をする際には。
 同世代の中では唯一と言ってもいいのかもしれない。ルリナさんがジムリーダーとして今も現役を続けてはいるが、ダンデの同期はほぼ現役を下りたと言っても過言ではない。皆ダンデの熱量についていけなかったからだ。

「……楽しませてくれるバトルはある。ずっと食らいついてきてくれるライバルも。でも、ナマエとのバトルは、本当に楽しいんだ」
「決着のつかないバトルが?」
「拮抗している証明だろう、互いの力が」

 ジムチャレンジはしなかったが、だからといって私はバトルを嫌いというわけではない。エンターテイメント精神を持てない私では肌が合いそうにないというだけで、ポケモンだって大好きだし、大会にはほとんど出場しなくてもバトルすることは好きだ。勝敗云々よりもまず、自分が育てたポケモンを活躍させることができるのが。
 一進一退ともなれば絶対に負けたくないって思う気持ちもあるし、勝てればやはり嬉しい。負けても学ぶべきことが増えて次に繋げる成長の糧にもなる。残念なことに、いつからか一進一退となるバトルが出来るのは、ダンデくらいになってしまったけれど。その結果もいつも引き分けで終わってしまうのが難点だ。

「大舞台で俺と君がやり合えばガラル中が沸くだろうし、トレーナー達の向上心も右肩上がりだと思うんだがなぁ」

 心底残念そうな顔でダンデは笑う。
 ダンデが私に好きだと言ってくれた時は、まずバトルの腕に惹かれているだけだと思ったくらいで。それくらい小さな頃からバトルばかりしていたし、確かに一人では食生活が覚束無いダンデにご飯を食べさせてやることは数えきれないくらいあったけれど、性格とか料理や紅茶を淹れる腕などよりも、いの一番にバトルが楽しいから、それに尽きると睨んだ。でもこの閉店後の二人きりの空間で流れる静かな空気も気に入っているということに気づいたのは、実は関係を幼馴染から恋人に変えてから少し経ってからだ。
 ポケモンの話ばかりが頭の引き出しの中に詰まる男は、どこかに出掛けるとしても最初にバトルコートを浮かべる程のバトル狂いではあるから呆れた時期もあったが、どうあがいてもバトルが楽しくてどうしようもないのは私も同じことだから、色っぽい場面が少なくとも割と満足が出来てしまえる。ソニアには否定したくせ、結局私もバトル狂いなのだろう。
 ただし、衆人環視のスタジアム以外でなら、だけれど。

「私は隅っこのバトルコートでダンデと二人きりでバトルするの、好きだよ」
「俺だってそうだ。だけど、その才能を新米トレーナーの助言だけに留めておくのはどうしても惜しい。育成のプロだって道はあるだろう」
「……私は今のままで満足だよ。私は私がやりたいことを今やってるだけ」

 両親の影響も大きいが誰かさんのお陰で紅茶だけでなく料理にも目覚めたわけだし、新米の世話を焼くのだって苦ではない。わからなかったことを理解して止まらせていた足を動かせるようになる姿はいつ見ても清々しいし、私の力で微々たるものでも勇気に繋がるのならば喜ばしい。そうして私が知恵を与えたトレーナーが、いつしかダンデの元へ辿り着くのかもしれないのだから。
 ダンデが推薦したあの子は必ず彼の元へ到達出来る。万が一だってあるかもしれない。粗削りでも筋のあるあの子と話をして一瞬でそう未来が浮かべられたのだ。

「……少しだけ、羨ましいな」

 ぽつりと、ダンデらしくはない小さな音で落ちた言葉が、例えダンデの真実であろうと。望んだチャンピオンという夢を現実にしているダンデが、決して抗えない透明なしがらみに苦悩する日があることも知っている。だからこそ、ダンデは私を選んでくれたのかもしれないと、そんなことも今は思っている。
 バトルのことでしか自分を上手には生きられないのに。ここは逃げ場ではないが、喧騒を置き去りにして、静かな空気を堪能したいと閉店後に飛んでくることくらい許してあげてもいいだろう。

「……ナマエ、バトルしよう!」
「最後はいつもこれだもんね」
「君のことだからカメックスもいつでも準備万端なコンディションにしてあるだろ!?」
「まぁ甲羅磨きも終わってるけど」
「今すぐ君としないと俺は今夜眠れない!」
「うわぁ、もっと恋人っぽい話でそれ言ってほしかったなぁ」

 とっくに空になった皿やらカップやらが、ダンデが勢いよく立ち上がった振動で責めるように高い音を鳴らした。割ったら容赦なく弁償させるが、それくらいどうってことないという顔で「これでもう憂いなくバトル出来るな!?」と以前迫られたこともあるので、もっと丁寧に備品を扱えと咎めたとしても微塵もこの男には響かないと悲しいかな承知もしている。

「ダンデが閉店後に飛び込んでくるから片付けも終わってないし、明日の仕込みも中途半端だからダメ」
「そんな……!?てっ、手伝うから!」
「えー?そう言って前に余計な仕事増やしたの誰?」
「……俺か」
「俺だね」

 そうやってあしらう口をしながら、私の手はダンデが空にしてくれた食器類に伸びて、私が継ぐタイミングで導入した食洗器の中へさっさと並べているのだが。

「うーん。一個、お願いきいてくれるなら考えよう」
「なんでもいいぞ!?」
「そんな無防備な返事」

 あまりに元気がいっぱいの返答具合だったからいささか体が引いてしまった。この何でも言ってくれ!と言いたげな満開の笑顔。このままのテンションだと高級マンションを買ってくれと頼んでも喜んで契約しそうで、本当は別の所で溢れん情熱を向けてほしいのが本音ではある。

「今夜はずっと一緒にいてよ」
「いいぞ!何度もバトルしよう!今回こそ、きっちり勝敗が決まるまで!」
「いやそういう意味じゃないって」
「そういう意味じゃって、……、……あ」
「ほんとバトル馬鹿」

 時間を掛けて私のお願いを紐解いたダンデ、ぽかりと口を開けてしまった。間抜けな顔がなんだか可愛くてつい笑ってしまったが、本当にやる気と欲がバトルにばかり傾く男である。

「同じベッドで、眠くなるまでたくさん話をしよう。ポケモンの話でも、新しい育成論の話でも」
「……そんな魅力的な願いでいいのか?」
「十分」

 他の魅力的な話もあるにはあるが、この状態のダンデはそんな色事よりもポケモンの話の方がいいだろう。女として触れて欲しい気持ちはあるが、私だって顔を見られなかった間に溜め込んだ話はポケモンのことばかりなので、せっかく久しぶりに会えたのだから誰よりも理解をしてくれるダンデと話がしたい。

「だからずっと一緒にいてね」
「もちろん!」
「でもその前に片付けと仕込み」

 今すぐ手を引いて外に連れ出しそうだったから掌を見せて「ノー」と振る。途端にしおれた顔をするのだからこの短時間の間にすっかりと忘れていたようだ。でも次の瞬間にはパッと顔色を元に戻して早く早く、と急かすので「ちょっとうるさい」と手と体は休ませず動かしながらまた笑ってしまった。怒りはしないがバトルを早くしたのは私も同じなのだから少しくらい大人しくできないかな。
 ダンデが私とのバトルを楽しんでかけがえのない、と思ってくれているように、私だってそうなんだよ。