火拳のエースと小さなナース | ナノ

パパは白ひげ。(1/7)









バケツに水をくみゆいは甲板を歩く。

両手で重そうに水をタプタプさせながら、今日もいつもの掃除場所へ。



「グラララ、毎日しなくたって、んなに汚れるもんじゃねぇぞォ?」



「しなきゃ先輩が怖いの…!
それにパパも病気なんだから……って、パパ、お酒はダメだって!」



ガシャ、と水の入ったバケツを置くと、会話の相手であるこの船の船長、白ヒゲの元へ小走りで行く。

なんと可愛らしい姿だ、と見ていられるのも束の間、ゆいは白ヒゲの手からお酒のビンを取り上げた。



「もぉ、パパ!
こんなの飲んでるのばれたら、私先輩に殺されちゃうからっ!」



「グラララ、ここには俺とお前しかいやしねぇ。ばれねぇだろ?」



「健康診断したらバレますって!」



「相変わらずナース達には頭が上がんねぇんだな。」




「パパもそうでしょ?」



そう言えば、グラララと大きく笑う。


ゆいが毎日掃除をナース達から任されているのは船長の部屋。

汚れがどうとかではなく、ここには毎日"息子達"と呼ばれる白ヒゲ船員が泥を付けながらやって来る。
勿論きっとエースもその一人なんだと思う。

せめて病気な船長の部屋と医務室は綺麗にしなければ、そんなナースの考えで、どちらの掃除もゆいが任されている。


夏の近付く、寒くはない暖かい気温の中、ゆいはバケツに沈む雑巾を手に取り絞る。


そして広いであろう部屋の端から端まで雑巾駆けするという、至って簡単な掃除方法だ。


これがまた、体力のいる仕事で…



「グラララ、もう終わりか?」



まだ5周しかしていない。
なのにゆいは息を切らしてその場に寝そべった。



「はぁ…ちょっと休憩っ。
疲れるんだよ、意外と…!」



「情けねぇ小さなナースだなァ。」



「…むっ!パパ、あたし元気だもん。」



そう言って雑巾を手に取り、また雑巾駆けをし始める。

なんて単純な娘なんだ、とまた笑ってしまう白ヒゲ。



タッタッタッタッタッタッタッタ、



床の上を走る音が響く。


だが、音もまた途切れてしまう。

見れば、疲れた顔のゆいが雑巾をバケツに突っ込み、絞っている。



何故か、毎日同じ事をしているのに、見ていて飽きない。


まぁ自慢の可愛い娘だから、と解ったようなことを答えにする。



「何だ、最近嬉しそうじゃねぇか。」



「えっ!?」



雑巾駆けに疲れたゆいに白ヒゲは話しかける。

そう、凄く解りやすいゆいの幸せ。



 









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