悪いものは悪い(4/6) さっきまで一緒に寝ていた自分の部屋へと入れば、ゆいを放してやる。 眉をハの字にするゆいは、目も合わさずにずっと跡を見ている。 「エース……、」 ふうっとベッドに座れば、ゆいも横へと座る。そして力無い声が名前を呟くように呼んだ。 「ん?」 ゆいの声を聞き落とさないように、自分よりかなり低い位置にあるゆいの顔へと耳を寄せる。 もじもじとした反応をとるゆいは、小さな手の平で傷口を覆い隠すように撫でた。 「痛かった、…よね?」 どうやら噛んだことに本気で罪悪感を感じているみたいだ。 普通に甘噛みをしていたのなら、きっとゆいの態度はでかかったろうに。 最初に手を出したのは自分。 それなのにこんな顔して謝られてはこっちが罪悪感に襲われる。 虐めようにも、どうやら自分はそこまでドSではないらしく。 「んな顔するなよ、ゆいのくせに。」 こっちまで調子が狂ってしまいそうだ。 ゆいの泣きそうな顔を隠すために、自分の胸へと押し当ててやった。 そして柔らかい髪の毛を容赦なく乱してやる。 元々セットなどされていない寝癖がかった髪の毛だったので、ゆいからは何も言われずに笑い声が聞こえる。 嬉しそうなその声に、一先ずほっとする。 「わたしのくせにって、」 「ああ、ゆいのくせに、だ。」 再びこちらを見上げる目には不満がたっぷりと映っている。 どうせ脳天気だとか馬鹿っぽいとか言われるのを想像してるのだろう。 正直、その筋はいいと思う。 だけど朝から機嫌をとり損ねるのはごめんだから。 むっとするゆいの耳の裏を触れたか触れてないか分からないくらいの感覚で触れてやる。 くすぐったそうに肩を上げるゆいの顔は自分の予想通りの笑顔を浮かべる。 「やだぁ、エース…っ!」 「ほら、俺はこれが好き。」 「え…?」 「こうやって笑ってるゆいが、どんな顔よりゆいらしいから1番好きだって意味だよ。」 笑顔を固めたゆいの顔を解すように親指で引っ張ってやる。 まだ意味を理解できてなさ気に反応に困っているゆいは、あっと呟き、嬉しそうに笑った。 見れば見るほど単細胞が丸出しになっている笑顔で。 ← | → |