悪いものは悪い(3/6) 「あら、いつから気付いてたの?」 エースに囁いたナースが包帯を救急箱へと仕舞う。 エースは扉の後ろ側まで聞こえるような声で返事を返す。 「そんなの、俺が部屋を出てすぐくらいに気付いてたってんだ。 ゆいが後を付けてたことくらい……なあ、ゆい?」 そう問い掛ければ、またドアがちょっとだけ開く。 そーっと開いたドアの隙間からチョコッと頭が見える。特徴的な色の髪が揺れ、大きな瞳が不安そうにこちらを覗いている。 何がしたいのか分からないその行動がエースやナース達には可愛く感じて。 ゆいは真剣に入るか入らないか悩んでいるのだろうが、中にいる者はついつい笑みが零れる。 「………っ」 「いつまでそうしてんだよ?」 「!……だ、だって、」 まだナース服に着替えていないため、キャミソールからは大胆に白い肌が露出されている。 半分もゆいの上半身は見えていないが、そのキャミソールがどんな形で、ゆいがいつもそのキャミソールと合わせる服を知っているエースは席から立ち上がる。 それにドキッとしたゆいは思わずドアの隙間を狭める。 狭まったドアの元へと歩き、エースはドアを引いてやる。 ゆいもドアを握っていたのか、開けた瞬間にゆいが引っ張られるようにエースの胸へと突っ込んできた。 きゃっと小さな悲鳴をあげたゆいをそのまま受け止めてやる。 「じゃあな、ナースの姉ちゃん達! ゆいは今日、遅れて出勤ってことで。」 え…と自分の胸から小さく聞こえた声をあえて無視する。 ナースは相変わらずの笑みを浮かべ、手を振る。 「ええ、もちろん構わないわよ。」 「お大事に、エース隊長?」 「おう!」 ゆいを胸へ収めたまま医務室を出ていく。 もがいているゆいの力がいつもより弱いのは、きっと今回の件について誰が悪いかをちゃんと知っているからだろう。 噛まれた方の腕なんて叩こうともしない。 もう痛くないのに傷をつけた本人は気になるのか、チラチラと跡を見つめて気にしている様子だ。 ほんとに可愛い奴だ。 ← | → |