海に消えてしまう前に…(5/6) 「エース隊長、お話きかせてちょうだい。」 椅子に座った一人の先輩ナースはエースにタオルを差し出す。 それを受け取ったエースも、椅子に座った。 「さっきゆいから聞いたの。 …うちの新入りナースがつけた酷い痣も一緒に見せてもらったわ。」 「痣…?」 「痣を知られたくなくて、あなたを拒んだら誤解されたって。」 「!…なんだよ、それっ」 グッと力の入る拳に、どれだけエースが悔しいのかがナースにも伝わる。 「私たち先輩にも何も言わないで、あなたがいない間 新入り達の仕事も一人でしてたみたい… 今日も一人でひょろひょろになりながら洗濯してたわ。 私たちのティータイムにも顔を見せなくなって、誰もゆいを見かけなくなった矢先、こんなに痩せちゃってね… 正直、今日見掛けた時はびっくりしたわ。 食事は1日に1回だけ、それも喉を通らないって。 …ここに来たときのゆいみたいだったわ。」 ゆいが連れていかれたカーテンの方を見るナース。 ゆいの姿を思い出したのか、グッと涙を堪えているように見えた。 「…みんな新入りと仲が良いから、信じてもらえないかもしれないって、一人で黙ってたらしいの。 ゆいらしくないわよね。」 ゆいらしくない。 その言葉に、どこまでゆいが追い詰められていたか思い知らされる。 「あいつ、泣きながら"もう死にたいの…"っつってた。 ゆいからんな言葉、出て来たのに俺…すんげぇ堪えた。」 タオルで拭く振りをして顔を隠すエース。 だが震える声は隠せない。 「"別れよう"った時のあいつの顔見たら…見てられなくて。 何故かあいつに苛々して…当たった。俺、最低だ…」 「自分を責めないで、エース隊長。」 ナースの声はエースの心には届かないかもしれない。 けど… 「そんな事言われたら、ゆいはあなたに何て返事をすればいいの?慰めて欲しい筈のゆいに、慰めてもらうの?」 エースの顔が上がる。 自分じゃなく、傷付いているのはゆいなんだ。 自分が散々傷付けておきながら… ゆいは今まで無理に笑ってきたんだ。 ← | → |