火拳のエースと小さなナース | ナノ

誰にも聞こえない、(6/7)








チャプチャプとバケツの中の黒い水が跳ね、ゆいのナース服にかかる。



「も、最悪だよ……っ」



濡れて冷たい黒い部分を見つめ、はぁ…っと溜息を吐くゆい。



仕方なくナース服を着替えようと部屋に行く。

少しだけ、自分の部屋からエースの匂いがする。


泣きそうゆいの涙腺には、いい刺激だった。



「エース…っ」



新しいナース服をクローゼットから取り出せば、冷たい服を脱ぐ。


脱いだ自分の姿を見て、唖然とした。



「…うそ。」



身体には、痣だらけだった。
あんなに蹴られたり叩かれたりしたら、そんな事にもなる。


あまりにも見苦しかったので、すぐにナースへ着替える。



嫌だ、
こんなんじゃ、帰ってきたエースに嫌われる。



エースだって女に餓えるような人ではない。

てきとうに女の人に声をかければ、誰だって快く抱かれるだろう。




こんなにブスで小さなわたしなんかより、素敵な人はどこにでもいる。


新入りナースにだって、いつ手を出すか解らない…
いつフラれても、おかしくはないのに。



「…わたし、やっぱり幸せになっちゃダメなのかな?」



ベッドに三角座り。
ゆいは溢れる涙を止められなかった。



痛かったし、淋しかった自分に、家族を教えてくれた白髭海賊団。



昔の自分を思えば、今の苦しい自分なんか、全然痛くない筈なのに…




着るものも、

食べるのも、

寝るところも、

喋る人もいるし、



冷たい鎖、

私を鞭で叩く主人、

辛い仕事なんてない。





幸せな環境にいるのに、どうしてこんなに幸せに餓えてるみたいに…涙が出るの?





 








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