誰にも聞こえない、(5/7) 「…ん、どうした、ゆい?」 サッチの声に、ハッと我に返る。 「あ、あはは、 新入りナースさんは、凄く働いてくれるよ。」 なんて嘘だ。 嘘つけないゆいには、咄嗟に出た事に驚きだ。 それにサッチも気づいていないみたいで、ニコニコ笑っている。 「そうだろ? いや〜、可愛いし仕事もできるし、文句なしだな! ありゃ完璧だぜ?」 うんうん、 頷くのが精一杯なゆい。 完璧… サッチはナース達の本当の顔を知らない。 そうだよ。 言ったところで、誰も信じてはくれないと思う。 エースでさえ、信じてくれるだろうか… だめだ、泣きそう。 「サッチ、わたし掃除の時間過ぎちゃうから、行くね!」 「なんだ、大変だなっ じゃあな〜!」 手を振って、笑ってくれるサッチに、ゆいも手を振り返し、その場から小走りで立ち去った。 バケツを持って、次はパパの所へ掃除だ。 パパに言えば…? だめ、パパがナース達を船の上に乗せたんだ。 そんなパパに言える訳がない。 それに言ったところで、居心地悪いのはわたしだけで、9人を下ろすより1人であるわたしを下ろした方が早い。 そんなの嫌だ。 下りたくなんてない。 わたしの居場所はここしかないのに。 結局、今日も少し世話しない会話をパパとしながら、掃除は終わった。 重たいバケツを抱えながら、ふと、甲板の方を見る。 マルコと新入りナースだ。 ああ、だめ。 マルコもダメ…… 1番の友達なマルコもきっと、新入りナースがお気に入りなんだ。 見たくない、そう思いながらその場をスタスタと離れた。 ← | → |