触れてしまった自分の心(6/8) 「財布か。 わかった、届けばすぐに連絡する。」 男子生徒はゆいに頭を下げて、生徒会室を出て行った。 意外と多い落とし物の数。 そして見つからない落とし物の数。 ゆいが生徒会室の椅子に座って6時間が経とうとするが、100件を余裕で越していた。 昼の2時半。 ゆいはふと窓の外から校舎を眺める。 エースは今頃、あの女子生徒と楽しんでいるのだろう。 生徒会室が静かになれば、そんな事しか頭に浮かばない。 …いつもなら、こうして座っていればエースが前から話し掛けてきた。 だけど、今は一人で生徒会室。 一人は慣れていたはず。 家でも学校でも、常に一人だったのに。 寂しい。 心細い。 エースは友達であって、自分の恋人ではない。 そう自分に言い聞かせる度に、何かが引っ掛かる。 生徒会室から見える、手を繋ぐ男女の生徒。 「…まさか、な。」 まさか… エースがいないと寂しい? エースに彼女がいるのが悔しい? まるで恋でもしているみたいだ。 人気者のエースに? 嫌われ者の自分が? 笑えないジョークだ。 雑学小説は読むけど、恋愛小説なんか読んだことがないゆいにとっては、その結果を導き出したところでどうしようもない。 第一、エースには彼女がいる。 これ以上情が移らないように、エースとは距離をとらないと… そう、距離を… 「…、」 無理だ。 直ぐに答えが返ってきた。 エースの存在は、今はこの世の誰より大きいのに。 距離をとろうと考えただけで、息が苦しくなる。 悔しい。 それしか出てこないゆいは、ガシガシと頭を掻いた。 乱れる長い髪の毛。 少しも治まらない、むしゃくしゃした心。 ← | → |