触れてしまった自分の心(4/8) 「エースの奴、だいぶ焦ってたよい。」 「…司会の台本か?」 「いや、それは確かに昨日焦ってたけどよい…」 マルコはゆいを見て、いつもと変わらない苦笑。 違うんだ。 自分でも知ってる。解ってる。 でも… 「ほらよ、これエースからだ。」 マルコは何かを握った手をゆいに差し出す。 マルコの大きな拳におさまるくらいのモノ… 何だろう。 マルコから受け取ったものに、ゆいは目を見開いた。 「…そんな目で、ステージ立てないだろい。」 ゆいの手の平からは、有名な会社の目薬。 どうしてエースは… 何を思ってこんなことを…っ 倉庫から出て行ったマルコ。 ゆいはただ目薬を握りしめた。 目薬を握りながら、いつものように挨拶をこなした。 慣れている舞台の上で、特に緊張もせず、ゆいは礼をして舞台袖に掃けた。 ずっとステージの下で立ちっぱなしのエースの表情など、見れる訳もなく。 エースの時々漢字に詰まる司会が、生徒の笑いを立てた。 彼は頭がいい。 わざとしているのかもしれない。 こういう馬鹿げた行動は嫌いだったゆいだが、なぜかエースだけは許せた。 もう呆れ果てたのかもしれない。 舞台袖でいれば、きっと司会を終えたエースが掃けてくると思う。 まだエースに会うのは嫌だ。 これから、仕事という仕事はない。 ただ何にも参加せずに、生徒会室に篭って落とし物等を受け付けるだけ。 しかも、流石にそれは生徒会役員達には頼んでない。 きっとエースは生徒会室でそれをしている事自体知らないだろう。 上手に体育館から出れば、生徒会室なんて目の前だ。 だが、一つだけ忘れていた事が。 「…目薬、いつ返せばいいんだ。」 エースから、 マルコは確かにそう言った。 マルコのだったらいいものの、よりによってエースのだ。 信じられない。 明日でもいいか。 だが…明日は、休みだ。 途方に暮れれば、どうやら開会式は終わったようだ。 ゆいは裏口から生徒会室に急いだ。 ← | → |