恋してごめんなさい、(3/8) 「冷て…っ なにすんだよッ!」 「心配ないわ、水だから。」 「いや、そういう問題じゃねーだろッ」 タオルをエースに渡すナミ。 そのタオルで顔を拭く。 自然と、タオルからゆいの香がした。 「…そのタオル、ゆいちゃんの忘れ物。 もう来ないだなんて、聞いてなかったから。」 「…捨てろよ。」 「あんた、本当に素直じゃないわね。 ルフィも、あんたのそういう所が嫌なのよ。」 「お前には関係ねぇだろッ!」 思わず怒鳴った。 女に怒鳴った事はなったのに。 ゆいが絡めば、いつも自分は短気になる。 「関係ないわけないじゃない! 何がゆいちゃんの幸せよ。 じゃああんた、ゆいちゃんの気持ち考えた?」 「…っ」 ゆいの気持ち? そんなのゆいが幸せに笑っていられたら、幸せだ。 「あんた、ゆいちゃんを見た目だけ幸せにして、気持ちなんてちっとも考えてないんじゃないの? あんた達が1番解ってるじゃないの。 見た目はそう見えても、実際は違うのよ。そうでしょ?」 見た目は金持ちで、自由に暮らしてる貴族。 でも、実際は鳥かごに閉じ込められた哀れな小鳥だ。 ゆいの人生は、そうかもしれない。 ゆいを大切にしてくれる人が見付かっても、ゆいが幸せであるとは限らない。 自分を好きになってくれた相手に、答えなければならない重み。 そして、ゆいが自分の事を相手の影で思い続けなければならない罪悪感。 「…じゃあ何なんだよ、"好き故の別れ"って…!」 「そんなの、あんたで見つけなさいッ!」 「…!」 ナミは櫛を置いて、その部屋から出て行った。 手に握るゆいのタオルからは、懐かしい香が放たれる。 そのタオルに、もう一度顔を埋めた。 ゆいの笑った顔が、すぐに浮かんで来る。 ゆいは元気だろうか? 風邪とかひいてないだろうか? 逢いたい。 やっぱり、忘れられない。 ゆいが忘れないでって言う以前の問題だ。 元秘書野郎が部屋に入ってきて、準備ができたと言った。 屋敷にお嬢様が着いたらしい。 さあどうする、俺。 考えながら、見合いの部屋まで行った。 ← | → |