恋してごめんなさい、(2/8) コンコンとノックの音がする。 エースは入れ、と返事をする。 外から入って来た者に、エースの元気は一段と下がる。 「エース様、来週の水曜日に向こう側のお嬢様がうちへ来るそうです。」 「…誰だよ、お嬢様って。」 解ってる。 誰が来るかどうかなんて。 最近、こいつは見合いの話しか自分にしないから。 今回も… 「見合い相手のお嬢様ですよ。」 ほら。 怪しいくらいに、その話しかしない。 まだゆいの事が続いてるって疑ってんのか? 冗談じゃない。 続いてたら、どこぞのお嬢様の話なんか反対している。 「…水曜日だな。」 「ええ。 それでは、失礼しました。」 静かに扉の音を閉める元秘書野郎。 もう人生がどうでもよくなってきた。 死んで生まれ変わったら、幸せになろう。 こんな自由がない日々。 恋愛相手まで決められて、結婚させられる。 おまけに屋敷からは出られない。 敷地を出れば、山奥なので遭難決定だ。 ゆい、ごめんな。 エースは携帯を握りながら、ベッドに倒れ込んだ。 そして、来週の水曜日と呼ばれていた日がやって来た。 うちの屋敷では、メイドや執事、そしてサッチ達が慌ただしく動いていた。 石油会社の社長とその娘が来るらしい。 元秘書野郎は真剣に指揮ってやがる。 んなに大事かよ。 肝心の自分の両親は、今日は帰ってこないのに。 元秘書野郎に着せられた、自分に似合わないスーツ。 こんなの歩くのもしんどい。 ナミが髪を整えたりしてくれていて、いつもと違う空気が嫌だ。 「あんたのくせ毛、どーにかならないの?」 「しょーがねぇだろ? 生れつきだ。」 「今日は一段と撥ねてんだけど? 見合いが嫌なの?」 「良いわけあるか、んなもん。 でももう諦めたんだ。」 そう、もう自由はいい。 諦めた。 切ないエースの表情。 それを見たナミは、霧吹きをエースの顔に吹きかけた。 ← | → |