...だから嘘をついた。(6/7) メールボックスに貯まる、1週間前までのゆいとのメール。 これも特に用件のないメールだ。 だが、そんなメールの一件一件が自分の心を踊らせていた。 おはよう、だの エースの馬鹿!笑、だの… 下にスクロールして見てみれば、ゆいの声が頭に聞こえてくる。 「…そうだな、俺は本物の馬鹿だ。」 メールを見返せば、やっぱりゆいを忘れられない自分に腹が立つ。 こんなんじゃ、前になんて進めない。 忘れる事なんて一生できやしない。 震える指先で、メールを全件削除する。 ゆいのアドレスも、ゆいの電話番号も… まあ覚えてしまっているが。 それでもアドレス帳から消す。 これでいいんだ。 ゆいとは、もう終わったんだ。 ゆいだって、とっくの昔に俺のメールもアドレスも、自分の携帯から消えている筈だ。 ただ、ゆいの中から俺が消えたみたいで、悲しくなる。 忘れないで… ゆいが言っていた。 忘れられるわけがない。 忘れたくても、できない。 終わった、と言って何度も流してきた。 それしか対処法がなかった。 ゆいとの思い出を全部無くせば… 弱い今の自分に、それはできなかった。 ふと視界に入る、テーブルに置かれたメモ用紙。 見なくても、何が書いてあるのかがわかる。 こんなの、二人の夢物語にすぎない。 できる訳がない。 初めて屋敷にゆいが来た日に書いた奴だ。 あの時は、これを見る度にうれしくなった。 全部できると思っていた。 でも、こんなの。 「…っ」 紙を破る。 こんなもの、見ているだけで悲しくなる。 息ができないくらいに、苦しくなる。 ぱらぱらとテーブルに落ちるメモ用紙の残像。 破り棄てた後に、感じた。 破り棄てる前より、胸が苦しい。 不意に破ったメモ用紙を、集める。 何がしたいんだ…。 文字と切り口を頼りにしながら、繋げる。 やっぱり、これを棄てるには勇気が足りなかった。 大切な思い出の中でも、上位だろう。 元のメモ用紙の形ができれば、自然と涙が落ちる。 ← | → |