...だから嘘をついた。(5/7) 一気に冷える部屋の空気。 「まあ屋敷は広いから、現れる方が難しいかもな。」 「あんた、そういう問題じゃないでしょ!ルフィも!」 「俺はあんなエース、嫌いだ!」 お兄ちゃん、居なくてよかった。 これ以上エースに刺激を与えれば、どうなるか解ったもんじゃない。 それに、幾度かこの屋敷に遊びにやって来たゆいは、ルフィの友達である。 兄の恋人だろうが何だろうが、知ったこっちゃない。 ゆいの幸せを考えているわけがない決断だ。 あんなにエースの前で嬉しそうに笑っていたのに、 あんなにエースのこと好きそうだったのに、 そんなゆいの心が急に変わるはずがない。 それに、無理矢理に満足した感情を自分に押さえ付けているエースが、エースらしくない。 そんなエースは、自分の知っているエースじゃない。 部屋ではサッチとナミが空気を戻しながら、トランプが再開された。 エースは長い廊下を歩き、自分の部屋に戻った。 後悔はしていない。 これがゆいにしてやれる最大限だから… なのに、自分の中では今でも迷いがある。 ルフィの言葉に戸惑ってしまう自分がいる。 見合いの話がちょくちょく元秘書野郎から出される。 どっかの石油会社の娘らしい。 写真を見せられたときに、自分でも素直に思った。 この女を愛せる気がしない。 どんなに綺麗な女や可愛い女を見たって、ゆいに勝る奴はいない。 昔の俺だったら、いい女が近づいて来れば相手をしたのに。 ゆいと出会ってからは、ゆい以外を抱かなくなった。 ゆい以外、嫌だ。 そんな感情が出てきたのに、正直自分でも驚いている。 ゆいに惚れ込んでいる自分に、嘘は吐けないんだ。 そう思った。 やっぱりそれは、今でも同じらしくて… 自分の感情に嘘を吐いていることが、息苦しい。 他の女を抱けば、忘れられるかもしれない。 何度もそんな事を思ったが、ゆいに触れた手で他の女を触りたくなかった。 ソファーに深く座れば、携帯のなる音が聞こえた。 誰だろう、 メールが一件入っていた。 見合いの女からだ。 特に用件のないメールだった。 だから返事をせずに、すぐに削除した。 ← | → |