...だから嘘をついた。(1/7) その日はよく晴れた日になった。 自分の気持ちとは裏腹に。 「お邪魔します。」 何も知らないゆいは、嬉しそうにマルコに連れられて来た。 いつもの様に階段を上がり、自分を呼ぶ。 「エース、久しぶり。」 「おう!」 上手に笑えている筈だ。 ゆいには何の違和感も感じない。 今日も普通の日のように部屋へ行って色々話したり、じゃれ合った。 サッチのお菓子も、ゆいはいつもの様に全部食べた。 だけどこれも最後になるんだ、 そう思えばお菓子の味が解らなくなる。 ゆいの事に気が惹かれるからか… そして、ゆいがバイト先の事を話したりする度に、自分との視界の差を思い知らされる。 「それで大変だったの…っ」 「なんだそれ、ゆいが100%悪ぃじゃねーか。」 「だ、だって仕方ないの! あの時はいっぱい荷物持ってて…」 バイトどころか、お手伝いの仕事すらした経験のない自分に、解りやすく話してくれるゆい。 こういう時に主がムカつくとか、こういう事を言えば嬉しいとか。 その視線の人の話を聞いただけで、自分のお手伝いさんを気にかける様になったり。 いつの間にか、夜になっていた。 もうゆいを手放さなければならない。 考えるだけで胸が苦しくなる。 「なあゆい?」 「ん?」 クッション投げをした流れで、ベッドに座るゆい。 そんなゆいを後ろから抱きしめた。 相変わらず甘い香りがする。 「話があるんだ。」 いきなり静かな雰囲気になる。 ゆいの顔はここからでは見えない。 そのかわり、自分の顔もゆいからは見えない。 伝えたい事は決まっているのに、言葉が出て来ない。 とりあえず、何かを言い出さなければならない。 そう思うより先に、ゆいの口が開いた。 ← | → |