オレンジなのかグレープなのか(9/9) 「…エースはエースだよ?」 「俺がロジャーの息子でも?」 「!」 ロジャーを知らない者は珍しい。 あの有名な株式会社の社長であるから。 「俺な、本当はこっそりここに来たんだ。 街には1度も行ったことなくて、ずっと屋敷で弟といた。 まあ社交パーティーとかが主な外出だ。 親父の元秘書が俺らの事、ずっと厳しく縛ってんだ。 何するにも許可なしじゃダメだし、一般人と接触すら許さない奴なんだ。 さすがに我慢の限界で、初めて街に来て、ゆいに逢った。」 ゆいは目を丸めていたが、エースの話を聞いて眉を額に寄せた。 一体ゆいは今、何を考えているのだろう… 気になったが、エースは途中で話を止めなかった。 話終えれば、ゆいは缶ジュースを握っている手とは逆の方の手で、エースのズボンをギュッと握った。 「その元秘書さんのこと、嫌いなんだね。」 「まあな、アイツのせいで俺らは何もできねぇからな。」 「そっかぁ…お金持ちって不自由してないと思ってた。」 「外見だけな。」 「じゃあエースはもう、ここに来れないの?」 意外なゆいの言葉。 まるでまた来てほしいみたいで、嬉しかった。 エースはニカッと笑って、ゆいの頭を撫でる。 「ゆいが暇なら、また案内頼もうと思ってんだけど?」 「…! ほんとに?」 「おう! あ、そうだ、アドレス教えてくれよ。また都合合わせて会おうぜ?」 「うん!」 一瞬、悲しそうな表情のゆいが、嬉しそうに頷く。 赤外線でゆいとアドレスを交換すれば、これ以上ない程の満足感が湧いた。 これで次は絶対に会える。 それに自分がロジャーの息子であっても、ゆいの態度は変わらなかった。 本気で運命って奴を信じてしまいそうになる。 「今日、メールする。」 「うん。待ってる。」 4時20分を示すディスプレイに、マリンフォード駅前までゆいと歩く。 いつもは1日が長いと思っていたエース。 今日は久しぶりに短い1日だと感じた。 マルコの車が見え、ゆいに手を振った。 「じゃあな、」 「また今度ね。」 continue... ← | → |