あなたのため、わたしのため(3/6) 報告書を出しに行ったエース。 それを見送り、また新聞を手に取ったゆいは目を疑う。 丸めた新聞の真ん中あたりのページに、引っ掛かる文字。 「…黒ひげ、七武海の地位脱却?」 新聞を開き、真剣な表情のゆいは文字を追う。 どうやら、黒ひげは凶悪な海賊達を脱獄させたらしい。 脱獄のゆいの脱獄も痴れている、そう黒ひげは海軍の前で笑ったそうだ。 確かに、エースと凶悪な海賊達の懸賞金を比較すれば、数の多いあちらの方が凄いことなのだろうが。 問題はそこじゃない。 「黒ひげは各地で暴れている…って、」 あんな力の前では、能力者であろうと庶民であろうと関係がない。 ヤミヤミの実の酷い力は、誰よりも知っているから。 それに、脱獄させた海賊達で暴れているとなれば、能力者であっても止めるのには苦難であろう。 きっとこの記事に誰かが気づけば、白ひげ海賊団は黒ひげを追うであろう。 黒ひげと衝突すれば、人数の問題ではなくなる。 非常に厄介な力だ。 このままでは仲間が危ない。 せっかく白ひげが作ってくれた居場所。 せっかくエースが紹介してくれた、エースの居場所でもあるこの船を、黒ひげに崩されるわけにはいかない。 ここ1ヶ月で、恩返しには大きすぎるものを貰った。 それに、わたしはわたしの恨みもあるわけだ。 「親父さん、エース… 怒るよね。」 でも、行きたい。 相手の能力を知っている身だ、もう盲目の恐さはない。 それに、わたしは強くなった。 強い人をこの船で見て、エースやマルコ、それに親父さんだって… みんなを見て、強さを学習した。 だから戦える。 何より一番の理由は… 「またここに、帰って来たいし。」 『ただいま』と言えば、『おかえり』が返って来るところがずっと羨ましかった。 それが今、ここに存在する。 絶対に帰って来たい。 おかえり、て言われたい。 エースの時みたいに、わたしも言ってくれるだろうか… エースには悪いけど、今は誰よりも先に黒ひげを見つけないと。 置き手紙を机の上に置き、ゆいは適当に木の椅子を持ち上げた。 ← | → |