今夜は眠れるだろうか(1/3) 風呂の扉が開く音がした。 それは自分より後から風呂へ入ったミホークが出てきた音だろう。 2人で旅をしているが故に、1人欠ければどうしても暇になってしまう。 まあそれは自分だけなのだろうが。 ミホークみたいな七武海とは違ってただの賞金首である自分は、仕事もなければ誰かに必要だと呼び出されることもない。 そんな生活の中で自分の行き先であるミホークは大変重要で。 当の本人はただの暇つぶしかもしれないが、自分にとってはこれからの人生がかかっている大事な人だったりするのだ。 「ゆい…?」 ベッドに横になっていれば、すぐ側から名前を呼ばれる。 ゆいはぱっと起き上がり、クルッと体の向きをミホークの方へと変えた。 バスローブ姿で酒の入ったボトルを片手にとる様子が目に入る。 この光景がこんなに絵になるのはきっとミホークだからなのだろう。 呼ばれた返事に、ん?と目を合わせれば、すぐに逸らされる。 この男は何がしたいんだ…! もういい、と言わんばかりにベッドに再び身体を預ける。 そうすれば、今自分の視界に入っているソファーに腰掛けるミホーク。 「ねぇ、ミホーク?」 「?」 酒を飲みはじめたミホークに、ゆいは声をかける。 また目が合えば、今度は逸らされる前に話をする。 「ミホークの初恋の人って、どんな人だったの?」 「それはまた突然な話だな。」 「うーん。 なんか今、ミホーク見てたら気になったの。」 「…この間は他の女の話をされるのが嫌だとか言っていたが。」 「あらま…、そうだった?」 言った記憶がないこともない。 ミホークと常に一緒にいると言っても過言ではない今日この頃で、ミホークが他の女の人を見ていることはないと言い切れるけど。 でも、それを言ったのはちょっとだけ特別な日で。 賞金首である自分が、ミホークと一緒にマリンフォードへのこのこと現れるわけにもいかずに。 同じ七武海で世界一綺麗なボア・ハンコックさんの話をされた時…だったっけ。 別にミホークがハンコックさんのことを褒めてたわけじゃないのに。 なんか嫌な感じに襲われた。 でも、今回は自分の好奇心で… 「やっぱり金髪で目の青い女の人だったの?」 「昔のことなど覚えておらぬ。」 「えー、覚えてるよ、ミホークなら。」 「なにを根拠に…、」 またまた…、人を馬鹿にした瞳がこちらを向いた。 表情が変わらなくても、これだけ一緒にいれば何を考えてるかなんて目を見ればわかるんだから。 どうせいつもの優柔不断な言葉だとか思っているんだ。 そんなミホークに言い返してやる。 「だってさっき、わたしが女の人の話をされるの嫌ってこと、覚えてたじゃん。」 本人ですら、言ったことを覚えていなかったのに。 こんな些細なことでも、ミホークは覚えてくれてる。 人生の中では自分の小さな言葉より、初恋の人との思い出の方がきっと色濃く残るはず。 ← | → |