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呼吸を忘れた深海魚(1/5)









「お、*****、可愛いな!」



「なかなか似合ってるじゃねーか!」



「へへ、ありがとう!」



廊下で出会ったクルーに声を掛けられ、その場でクルリと一周する*****。

その笑顔はいつもの可愛らしい笑みより更に輝かしいもので。


足取りもかなり浮ついてる様子。

端から見ていて彼女に良いことがあったのは一目瞭然で、その良いことと言うのも彼女を見れば一目で分かる。



そんな浮足立っている*****とは対照的に、その半歩後ろで納得いかない顔をするのは彼女の恋人。


クルーとの会話を見るなり、面白くなさそうに壁へともたれ掛かる。

明らかに不満げな態度をとるエースを見たクルーの口から苦笑が漏れる。



「その様子じゃあ失恋ではなさそうだな。」



「失恋…?」



「お前、愛されてるなー。
俺は命が惜しいから、今日はこの辺で退散するわ、」



「え…?」



「俺も、じゃあな、*****?」



「うん?…うん、ばいばい!」



意味の分からないクルーの会話を聞き、不思議な顔をする*****。

こっちに手を振るクルーの目線の先は自分ではない気がして。


ふと後ろを振り返る*****。

そこにはエース一人しかいなくて…あれ、エースに?



「エース、」



「…ああ?」



「うーん…なんでもないっ
次、食堂行こうよ!」



「お前、さっき飯食ったばかりだろ?」



「わあ、エースにそんなこと言われる日が来るなんて…く、屈辱だ…っ」



「な、なんか…すんげー腹立つな、」



眉を片方だけピクッと上げるエース。
何だか色々とご立腹なご様子だ。


まだ口を聞いてくれる今の状況から悪化させてはいけないと、*****は食堂へと向かうはずの足をピタッと止めた。


そして、壁にもたれ掛かるエースの顔を覗き込む様に見上げる。


ご立腹なエースには悪いけど、軽くなった身体で色んな体制をとるのが楽しい。



そう、さっきナースさん達に腰まであった髪を肩に掛からないくらいまで切って貰ったのだ。

それで色んなクルーがさっきから自分に声を掛けてくれて、今楽しいけど。



どうやらエースはあんまり楽しくないらしい。


どうしてだろう。
髪を切ることは言っていたし、渋々ながらも承諾してくれた。


可愛いって言ってくれたけど、実はあんまり似合ってなかったり…?



覗き込んで目をエースと合わせ、言った。



「似合って、る……?」



誰に似合ってるとか褒めてもらったって、エースが気に入ってくれなきゃ意味がない。


これでも一応 火拳のエースと恐れられる…けど、女性にはモテモテなエースの彼女だから。

髪を切ったくらいで釣り合えるなんて思ってないけど、今まで以上に差を広げたくなんかない。





 









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