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帰り道を覚えてますか(2/3)










ガラガラ……



明らかにドアを開けた力は自分のものではない。


半透明なドアのガラスには黒髪の姿が映り、そして視界にはっきりと実物が映る。



「………、」



「よぉ。」



思わず目を丸めて固まる自分とは裏腹に、あたかもあたしがいることを知っていたような顔で笑みを作る目の前の人物。



ああ…すごく最悪だ。

このまま静かに1週間が過ぎてくれれば問題なかったのに。



目の前に立つ人物…エースは固まる自分の頭に手を乗せる。



「いやー、よかった。
今日は間に合ったみたいだなぁ。」



「……何がだ、」



答えは薄々検討がついているけど、しらばっくれる。


ジャージのエースは少し見慣れなくて見つめてしまいそうで思わず視線をエースから外す。



早く帰りたい。

今日はもう何も上手に話せる気がしない。



「いつもな、俺の鞄の上に買ってきたばかりの冷たいポ○リが置いてあんだよ。」



言い出したエースの横を通り先に帰ってしまおうとすれば、エースの手によってドアが閉められる。

行くな、ということなのだろう。



相槌を打たなければ何も反応しない自分に話しつづけるエース。



「俺はそいつに礼がしてぇんだけど、*****は誰か知ってるか?」



こっちがしらばっくれるように、向こうもしらばっくれるつもりなのだろう。

面白がるように自分を覗き込むその視線に動揺してしまう。



「しらない。」



「…おかしいなあ、今日もそこに置いてあるのに。
*****は知らねぇんだ?」



「……そんなの、しらない。」



「一昨日から帰る振りして図書室に寄ってる*****は何も知らねぇんだ?」



「……しらない、」



「一昨日から休み時間に何か気付いて欲しそうな目で俺のこと見てた*****は何も知らねぇんだ?」



「………しらない、」



「帰り際に女の子に囲まれる俺をチラッと悲しそうに見て先に帰る*****は何も知らねぇんだよな?」



「………し、しらないっ」



こいつ…全部知っているのか。



完全にエースの空気に持って行かれて帰れる雰囲気ではない。

それどころか目の行き場さえも凄く不安定で。



エースを直視できずに思わず下を向けばそれすらエースの人差し指と親指が阻む。

クイッと顎を持ち上げられれば、エースの顔が近くにくる。



その表情は想像していた自分を面白がる様な表情ではなくて、なにかとても優しい気持ちになったみたいに穏やかな表情で。



「*****?」



名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。


好きなんだ、自分をこんな気持ちにさせるエースが。

怒ることも、まして申し訳なさそうなことを言おうとするエースは予想外にもどこにもいなかった。






 








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