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帰り道を覚えてますか(1/3)









あいつはいつも見透かすようにあたしの心を読んでくる。


本当はしてほしいことを言葉にしなくてもあのエースらしい笑顔を浮かべてしてくれて、掛けてほしい言葉を好きな声色で掛けてくれて。



だが、あいつは単純なことが少しだけ理解してくれないと思うことがある。




今日だって。



「はぁ…。」



自分の愚かさあまり、思わずため息が零れた。


誰もいない教室、それだけなのにその風景には心細さを掻き立てられる。


自分が座る席の前には見慣れた鞄、その鞄にかかる自分のとおそろいのキーホルダー。

でもその持ち主は今ここにはいない。




一昨日から一週間、エースはバスケ部の助っ人を頼まれたため試合までの部活に参加しているのだ。


"遅くなるから先に帰っててくれ。"
そう告げられた時、素直に"一緒に帰りたいから部活が終わるのを待つ。"なんて言えなくて。


そもそもエース自体 自分のために夜遅くまで待たせたくない、そんな優しさの持ち主だから。

それを分かってしまっている故に"待つ"なんて更に言えなくなる。




単純に、いつまでかかってもいいから一緒に帰りたい、そう思ってるだけなのに。

その面に関しては全くと言っていいほどエースは気付いてはくれない。



一昨日からこうして教室で一人で待って、でもエースと帰ることはない…そんな微妙な下校を行っている自分に腹が立つ。


体育館から出てきたエースと出くわさないように回り道をして校門に行ったり。


その一瞬でも部活の終わったエースを確認する自分がいて。
だが確認する間もなくエースの周りを待っていた女子生徒が取り囲む。


快く渡されたタオルを受け取るエースを見て、それで帰る1週間は正直きついのかもしれない。


本来なら自分があの場に立ってエースにタオルを渡すことができれば、どれだけ気が楽なのだろうか。

仮にも自分はあの生徒達よりランクが上の恋人なのに。



すごく不愉快だ。


あたしだって部活中のエースを見たくないわけじゃないのに。

自分からはそんなこと言い出せないし、エースに冷やかされれば否定的な言葉ばかり吐いて。






今日もそんな下校時間がくる。


いつもスポーツ飲料を、できるだけ部活が終わる直前に買ってエースの鞄の上に置いておく。


本人は気付いているのか知らないし、あたしにその話題をすることはない。


顔を見ればむかつく反面、待っていたことに対して怒られたりしたら…と不安で。



正直、女子生徒にもこれくらいして貰っているはずで、あたしからなんて更に余計なお世話かもしれないけど。

素直に言えない捩曲がった性格のせいで一言もエースに応援しているという言葉を伝えられない変わりになればいいと思ったり。



コトンと今日も冷たいスポーツ飲料をエースの机の上に置く。

時計を見れば、部活が終わるまであと2分というところだろうか。



自分の鞄を持ち、エースの机を一瞬見れば教室から去ろうとドアへ足を運ぶ。



今日も無意味な時間を教室で過ごして、自分はとんでもなく馬鹿だとまたため息がこぼれる。


今頃エースは女子生徒にいつもみたいに…そう思えば醜い独占欲にも女子生徒にも、腹が立つ。



今日は急いで帰ろう。




ドアに手を掛けたときだった。








 








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