君にかけたとけない魔法(3/3) こうやって*****が必死になって止めるのは、嫉妬してくれていることを証明するし、あまり見られない*****の必死で可愛い顔だって見ることができる。 けど惜しいな。 これまで幾度となくこのパターンで弄られてきたのに、どうして真相に至らずに悲しい方へと考えてしまうのだろうか。 まあそれが*****は飽きない奴だと思う理由の一つなのかも知れない。 次の言葉を放とうと開く*****の唇へと人差し指を当てた。 驚いている*****が言葉を詰まらせるその表情も、予想通りのものだ。 「無意識に人の不意をつく癖に、こうやって簡単に行動がよめる…俺に言わせりゃ、お前はウルトラ級に不思議な奴だな。」 「わた、し…?」 「言っとくけどよ、お前以外の女の思い出は日に日にお前に掻き消されていくんだぜ?」 「え……っ」 大きく開く瞳には、映されている自分の姿が見える。 今驚くのだって、この後に笑うのだって、わかってる。 細い指が頭へと伸びてきて、それを一切抵抗せずに受け入れてやる。 すーっと、触れているのか触れていないのか、もどかしささえ感じてしまうその手。 そして*****は予想通り笑みを浮かべた。 予想以上に綺麗な笑顔を。 「1番の思い出、わたし?」 「1番とか言わずに、俺の頭 全部支配してみろよ?」 「エースの…、」 遠慮があるのか、それとも驚いているのか…唇が動かない*****。 頭にやっと*****の手の感覚がはっきりすれば、何を思ったのかくしゃくしゃと髪を乱しはじめる*****。 「もしわたしが素敵な男の人と出会ったら、エースの頭の中のわたしはどうなるの?」 人の髪を乱したあとは、馬鹿みたいな質問かよ。 本当に"もしも"以外何の根拠もないこの話に、答えがあっていいのか。 「残念だけど、俺の頭の中以前にお前の頭の中が許さねぇだろーな?」 「え…?」 「どんな野郎と素敵な出会いしたって、俺は*****に魔法かけたからな。」 「ま、魔法かけたの…!?」 「ああ、*****の頭を支配しつづける魔法を、な…?」 瞬きもしない*****がハッとなれば、頭を覆っていた手が離れる。 その白い手は迷うことなく*****の胸へと当てられる。 まるで昔に読んだ絵本みたいなことを言っている気がする。 そう思えば、*****は呟くように言った。 「わたし、その魔法にかかった気がする…!」 何を言い出すのかと思えば、思わず笑ってしまいそうになる。 けど*****はきっと"昔に読んだ気がする絵本"なんて幼い表現を真剣に受け止めているみたいで。 本当に可愛いやつ。 「一生といてやらねぇから、しっかり俺だけ見とけ。いいな?」 「りょ、了解です!」 なんだ、その返事。 強引に押し付けるように結んだその約束。 魔法をかけたのではなく、魔法を掛け合ったことは秘密。 そんな自分達を見ている癖に何も言わない月も共犯者だ、なんて思えてきた。 end ← | → |