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君にかけたとけない魔法(1/3)










真っ暗な部屋に温かいベッド。


それは理想的な空間であって、現実的な二人の愛を表している。



どちらかが欠けたとすれば、ベッドはこの温かさにはならない。



残念ながら今週は*****の都合で体を重ねることはできないが、それでも自分達なりに幸せを感じ合っている。
今日だって。



「ねぇ、エース?」



「んー?」



「眠い?」



「昼寝したからあんまり眠くねぇ。」



「そっか。」



「なんだそれ、」



何かあるから聞いたんじゃないのか。


言ってみただけ、とか、呼んでみただけ、とか付け足して笑うのが最近の*****のマイブームらしくて。

今日もどうせその類の流れになるのだろう、と考えていた。



暗い部屋に慣れた目で、はっきりとは見えない*****の顔を見る。


お決まりの言葉がまだ飛んで来ないし、*****の口元が何かを言いた気に動いているのが分かった。



今日はどうやら違う流れらしい。



少しだけ期待して*****の唇を見つめていれば、*****は言葉を紡いでいく。




「…あのね、エースの1番の思い出ってなぁに?」



「それまた急だな、」



「わたしはずっっっっっっっと前から聞こうとしてたんだよ?」



"ず"と"と"の間の長さに、聞いているこっちの息が苦しくなる。


どれだけ前からかは知らないが、そんな表現をしたらきっと誰もが四足歩行の猿か人間か解らないような時代まで遡ってしまうだろう。

まあそれもまた大袈裟な例なのだが。



*****が言いたいのはきっと、マイブームを始めた時くらいから聞きたかったということなのだろう。


いつも遠慮なく人の部屋のタオルを持って行くくせに、何でこんなにしょうもないことを思ったときに素直に言えないのだろうか。



そんな不思議な頭をもつ*****に飽きが来ることはまずない、と言い切れる自分も相当なのだろうが。


…じゃなくて、




「1番の思い出かぁ……」



「うん、なぁに?」



「……あれだ、やっぱり17んときに海に出た新鮮な感じかな。」



今でもまだ簡単に浮かべることができるあの景色。

あの時は本当に………って、あれ。



聞いた本人を見てみれば、そんな事が聞きたかったわけではない。みたいな顔をしている。



んー、と何かを考えているかように唸れば、チラッと目を合わされる。


…何が聞きたかったのか。

質問に対してまともな答えを出したはずなのに。



「…何が聞きたいんだよ?」



微妙な反応をしていた*****に問い掛ければ、非常に言いにくそうに声を細める。



「いや…あのね、エースの1番よかった女の人との思い出。」



成る程な。

最初に補足なしでストレートに聞いたと言うことは、自分の中では綺麗でナイスバディなどっかの女と一晩明かした時の思い出が1番の思い出だって思われてるわけか。


心外だな、全く。

こいつはどれだけ特別に愛されているか分かっていない。







 








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