日常からの転落(5/7) 綺麗に8等分になったケーキ。 そのうちの2きれを、皿に乗せる。 一つの皿には普通に置かれたケーキ。 そして、もう一つの皿に置かれたケーキには、砂糖で作られた白ひげサンタと大量のフルーツが乗っていた。 せっかく綺麗な等分に切れたはずのケーキなのに…と、ゆいは不愉快そうな目でエースを見た。 エースはお構いなく、サービスされた皿をゆいの目の前に置いた。 「こっちがゆいのな。」 「…あたしはそっちでいい。」 「何言ってんだよ。 ゆいの為に買ったケーキなんだ、遠慮すんなよ。」 ゆいは差し出された皿を見て、頷いた。 エースはニッと笑って自分の皿のケーキを持つ。 左手は骨折してギプスの嵌っているので、右手でフォークを持った。 皿に乗ったケーキを一口で食べてしまうエースに苦笑しながら、ケーキを一口サイズに切って口へ運ぶ。 ゆいの手は震えた。 ここ最近、ホールケーキなんて食べることはなかった。 母親がいた頃は毎年、こんなケーキを誕生日にテーブルに並んでいて… 自分の誕生日を祝ってくれていた両親。 笑っている母さんと父さんの横で、ろうそくの火を吹き消した。 それが毎年、好きだったっけな。 楽しい思い出が、不意に脳裏に浮かんでくる。 「ゆい…?」 エースに掛けられた声に、ゆいははっと我に返った。 不安そうにこちらを見ているエース。 口に広がる甘い味は、久しぶりに食べた自分好みの味だった。 「…おいしい、な。」 「そりゃ良かった。」 難しそうなゆいの表情が明るくなった。 それを見て安心したエース。 「…小さい頃を思い出した。」 「どんな事を?」 「小さい頃は…母親がいた頃は、誕生日にケーキを買ってくれた。 だが母親が死んだ年からはケーキを食べることはなくなった。」 だから難しそうな顔をしていた。 良い思いでも、悪い現実と繋がってしまうゆいの人生。 フォークを見つめて悲しい表情を浮かべるゆい。 そんなゆいの頭を、わざと髪を乱すように撫でるエース。 「なら良かったじゃねぇか!」 「え…?」 「今年からケーキは復帰だ! 嫌っつっても、死ぬまで誕生日ケーキだってクリスマスケーキだって何ケーキだって食わせてやるからよ。 だからそんなに悪い方向に思うなよ。」 「!」 悪い方向に思うなよ。 言われてみれば、そうだ。 今日はせっかくケーキを持ってきてくれたのに。 ケーキに乗り切らないくらいのフルーツを盛ってくれているのに。 ケーキはこんなに美味しいのに。 エースと一緒に食べれて、嬉しいのに。 まるで自分は馬鹿者だ。 「…エース、」 「どうした?」 フォークからエースに向いた視線。 ん?と聞いているエースに、ゆいは柔らかい表情を見せた。 ← | → |