日常からの転落(4/7) 事故から数日が経った。 一度もゆいの病室に姿を現さない父親。 だがゆいにとっては、そんなことはどうでもよかった。 毎日のようにエースが見舞いに来てくれるからだ。 勿論、エースは学校に通いながらだが。 ゆいの説得により、エースは渋々学校へ登校させられている状態なのだ。 次の学年の生徒会長が決まるまで、生徒会長も副会長も学校へ行かなくてどうする。 それに、自分は授業に出られないので、授業でやったことを病院で教えて欲しい。 そう言ったゆいに、いとも簡単に嬉しそうに頷いてくれたエース。 学校が終わればすぐにゆいのいる病院へと足を運ぶ。 「ゆい〜っ」 遠慮も無しに病室の扉を開けるエース。 そんな彼に、ゆいははぁ…と溜息をつく。 「お前は…静かに入って来いと何度言えば分かるんだ。」 「まあ、んな固ぇこと言うなよ。 おら…これで機嫌直せよな。」 ニーッと笑って紙袋を差し出すエース。 別に機嫌の問題ではないだろ、と言い返すものの、エースの持っている紙袋に視線が行った。 エースはベッドに付いている机の上に紙袋を置けば、中身を楽しそうに取り出す。 「じゃーんっ! 期間限定の白ひげサンタのケーキだ!」 紙袋の中の箱を取り出し、開ければホールケーキが入っていた。 まさかホールケーキを取り出すと思わなかったゆいは、思わず笑ってしまった。 ゆいの反応に嬉しくなったエースも、同じ様に笑った。 「見舞いにクリスマスケーキを買う奴がいるか…全くっ」 「今日から発売だったんだ! ゆいと一緒に食いたかったから、持ってきちまった。」 「っ!// …そ、それよりお前、ナイフとか持ってるのか?」 「………あ。」 ホールケーキを買った嬉しさあまり、食べる時のことを考えてなかったエース。 参ったぜ…、と頭を掻く。 ほんとに、いつもどこかが抜けている。 近くの百均へ行くというエースを止めて、ゆいはテレビの下の棚を指さした。 「あそこにあるはずだ。」 「…マジかッ!?」 「プラスチックで良ければ、皿とフォークもある。」 「流石ゆいの病室だな。」 「サッチがこの間、持ってきてくれたんだ。」 指さされた棚を開ければ、確かに入っている小さなプラスチックのナイフ。 白いプレートにスプーンとフォークが何セットか。 そして、紙コップや布巾に割り箸。 料理の上手なサッチならではの、気の利かせ方だ。 エースはプレートを2枚、フォークと2つとナイフを取り棚を閉める。 「明日、補充しとくな。」 「気にするな、孰れは使う物だ。」 「いや、俺次は忘れねぇって保証しきれねーからな。」 「…お前って奴は…っ」 自慢げに笑みを浮かべ、皿とフォークを並べた。 エースのナイフ捌きによって、ケーキが等分に切られていくのをゆいは見つめる。 ← | → |